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這い上がれないロッキー・バルボア=中年レスラー、ランディ。それが「レスラー」

2020年1月5日、私は
新日本プロレスの年一番のお祭り:イッテンゴを、東京ドームへ観に行った。
目当ては、獣神サンダー・ライガー選手の引退試合だ。

ライガー選手は
老獪なグラウンドの攻防や、弓矢固め→ロメロスペシャルへのつなぎなど
「攻めのテクニック」を後輩レスラーに伝授したのち、
後半からは、進化著しい二人の後輩からありとあらゆる攻めを受けに受けて
最後は、高橋ヒロム 選手に、引導を渡された。

拍手と歓呼の中を、試合後のライガーは悠々と立ち去って行った。
2階スタンドからも鮮やかにその花道は見えた。
これこそ有終の美、というべきものに、震えた。

翌1月6日にライガー選手は引退。
その2日後、この試合でライガーのパートナーを務めたレスラー:佐野巧真選手も静かにリングを後にした。

ライガー選手は新日本プロレスひとすじ。佐野選手は様々な団体を流転した。
そんなふたりが、最後は同じ試合で、同じ時間を共に、同じくリングを去った。
これこそ真の朋友と言うべきもの、友情の美しいすがたというべきもの。
彼らは、綺麗なけじめを付けられたのだと思う。


だが、大抵のプロレスラーはそう簡単にはリングを降りられない。なぜならリングは麻薬、ライガー選手や佐野選手のようには、綺麗に自身のレスラー人生にけじめを付けることができないから。
2008年公開の映画「レスラー」は、残酷にその現実をえぐり出す。

栄華を極めた全盛期を過ぎ去り、家族も、金も、名声をも失った元人気プロレスラー“ザ・ラム”ことランディ。今はどさ周りの興業とスーパーのアルバイトでしのぐ生活だ。 ある日心臓発作を起こして医師から引退を勧告された彼は、今の自分には行く場所もなければ頼る人もいないことに気付く。新しい仕事に就き、疎遠だった娘との関係を修復し、なじみのストリッパーに心の拠り所を求めるランディ。 しかしその全てにつまづいた時、彼は悟る、例え命を危険にさらすことになっても、自分はプロレスラー“ザ・ラム”としてしか生きることが出来ない男なのだと―。

監督 ダーレン・アロノフスキー
キャスト ミッキー・ローク マリサ・トメイ 他
脚本 ロバート・シーゲル
音楽 クリント・マンセル

日活 公式サイトから引用


ミッキー・ローク演じるかつてのスーパースター・ランディは
いまやロッキー・バルボアの様にその日暮を送っている:生活は荒廃している。

生きがいを持てずにさまよい続ける日々から、栄光を掴もうとリングに上がる。
それはロッキーもランディも同じ。
ロッキーはチャンピオンに試合を持ちかけられる形で。
ランディは強敵(とも)に復帰試合を持ちかけられる形で。

社会的に弱い立場に立たされた男が、肉体を削って戦うものがたり。
だがここにロッキー・バルボアがエイドリアンやポーリーとの交流の中で得た「愛」「友情」「努力」という言葉はない。ランディは、自分一人の身体だけを頼りにして、先の見えない戦いの中に骨身をさらけだすのだ。それが、痛い。

※各種配信サイトで配信中!


なお本作は、2008年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。


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ドント・ウォーリー
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