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いちどは行ってみたくなるcathédraleの点景。それが「もしも建物が話せたら」。

タイトルそのままの内容をした、長編ドキュメンタリー映画だ。
時代の波にさらされた建物たちに、自らをモノローグで語らせてみせる趣向。
ベルリン・フィルハーモニーは、ベルリン分断の歴史を語る。
ロシア国立図書館は、政治の波に晒されながら本を護り続けた意義を告白する。
ハルデン刑務所は、必罰の風潮に否を唱え、新しい時代の刑罰を提起する。
ソーク研究所は多くを語らない:ポーズを取るだけ、美貌を魅せるのみ。
等等、名刺の出し方は個性様々。


本作において自らを語った6つの建物の中で
いちど、行ってみたい、と私が思えたのは、ロシア国立図書館だった。

急流のように流れている時代の中で。何もかもがその流れの中に、身をゆすぶっているような感じの中で。モスクワ市民は、この図書館に足を運ぶ。

そこでは、こっそりと隠れるようにして、古い本が集まっている。
中世の、近世の、現代の、ジャンルを問わぬあらゆる本が密集している。
本の重さで、建物自体が軋んでいる、と言うべきだろうか。
軽さ、親しさ、便利さ、機能的 とは程遠い空間。
重くて、「よほどの本好きでなければ立ち入るのも躊躇われる様な」空間。

それが、ロシアのインテリゲンツィアが憧れて、惹きつけてやまない空間。
彼らは、そこで本を読み、時代を生き抜く糧を得て、また日常に戻っていく。
本をじっくり読む人間たちの微かな息遣いが、画面をモヤのように覆っている。



無口なものほど雄弁だ。

これが公開当時のキャッチ・コピーだった。
ふだんモノを語らぬ空間が、自らを語る。ただそれだけなのに、揺さぶられる。
貴重な瞬間ばかりを切り取った長編ドキュメンタリーだ。


※本記事の画像はロシア国立図書館公式サイト から引用しました。

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ドント・ウォーリー
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