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ショートショート・ストーリー【SSS】

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2024年8月の記事一覧

【159字】肉の香り

【159字】肉の香り

『肉の香り』 路地裏で、肉の焼ける匂いに誘われ扉を開く。店内は暗く、肉の塊が吊るされている。奥から現れた白衣の男。

「いらっしゃい。特別な肉はいかが?」
 その瞳に映る私は、笑みを浮かべていた。

 夢から覚める。隣で寝息を立てる白衣の恋人。そして、台所から漂う甘い香り。
 起き上がり、冷蔵庫を開ける。その中には、人型の肉……

【415字】不詳の書籍

【415字】不詳の書籍

不詳の書籍 私は、いつもの通り本屋に立ち寄った。
 新刊コーナーを眺めていると、一冊の本が目に留まった。しかし、表紙には絵も文字もタイトルすらない。奇妙に思いながらもレジへ向かう。

「この本、作者不明なんですね」
 店員は困惑した表情を浮かべた。
「申し訳ありません。在庫にない本です」
 私は混乱した。確かにここにあるのに、どういうことだろう。

 家に戻り、その本を開いた。ページをめくると、そ

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【SSS:765字】氷の渓流

【SSS:765字】氷の渓流

氷の渓流 私は歩いていた。都心の雑踏から逃れるように、人気のない裏通りへと足を向けた。ミステリー小説を読み漁る日々に飽き、現実の謎を求めていた。
 そこで目にしたのは、不思議な光景だった。路地の奥に、一軒の古びた喫茶店。看板には『氷水専門店』と記されている。好奇心に駆られ、扉を開けた。

 店内は薄暗く、冷たい空気が漂う。カウンターに座ると、無言で氷水が差し出された。一口飲むと、驚くほど冷たく、ま

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【240字】魔法の時間

【240字】魔法の時間

魔法の時間 街角の古書店で見つけた一冊の本。タイトルは『魔法の時間』……開くと、真っ白な紙が次々とめくれていく。そこに浮かび上がる文字。

「あなたの人生を変える魔法の時間です」

 その瞬間、世界が歪んだ。私は本の中に吸い込まれ、異世界へと飛ばされた。
 そこは、私の記憶そのものだった。過去の自分が、未来の私に語りかける。

「本当の謎は、あなたの中にある」

 気がつくと現実に戻り、本は消えて

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【397字】神の目

【397字】神の目

神の目 私は目を閉じ、深呼吸をした。右手に感じる六面体の冷たさが、心臓の鼓動を加速させる。

「さあ、運命の神よ。私の未来を決めてください」

 カタカタと音を立てながら転がるサイコロ。開けた瞼に映るのは、驚くべき光景だった。

 サイコロ自体が展開し、六つの目が全て上を向いていた。そんなはずはない。でも確かに、そこにあった。
 心臓が激しく脈打つ。頭がクラクラする。目を閉じ、開く。何度繰り返して

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【174字】にわか雨の告白

【174字】にわか雨の告白

にわか雨の告白 私は雨に打たれていた。突然の雨。濡れた路地裏で、見知らぬ男が私に告げた。

「君は今、殺された」
 驚く私。だが、男の言葉は続く。
「いや、正確には五分後に」
 混乱する私。男は懐中時計を取り出し、
「さあ、謎を解け」
 私は必死で考えた。そして閃いた瞬間、男は微笑み、霧のように消えた。

 雨は止み、私は生きていた。殺されたのは、無知な私だった。

【370字】鯉の涙

【370字】鯉の涙

鯉の涙 ある日、都心の古書店で見つけた一冊の本。表紙には鯉の絵。開くと、涙のような水滴が滲む。不思議に思いながら購入し、帰宅後、再び開くと——驚いたことに、本の中身が白紙になっていた。

 翌日、同じ本屋を訪ねるが、店主は「そんな本は扱っていない」と首を傾げる。混乱する私。そのとき、店の奥から聞こえてきた水の音。
 好奇心に駆られ、音の方へ向かう。すると、壁に隠された扉を発見。開けると、そこには巨

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【198字】白衣の謎

【198字】白衣の謎

白衣の謎

 街角に佇む白衣の人影。私は足を止め、目を凝らした。人だろうか、それとも……。
 好奇心に駆られ、近づく。すると突如、白衣が風に舞い、消えた。驚愕する間もなく、目の前に開いた穴。
 落下……闇の中、私は気づく。これは夢か現か。

 目覚めると病室。白衣の医師が私を見下ろしていた。
「よく眠れましたか?」
 その問いかけに、私は震える。

 なぜなら、白衣の下から覗く足が、人のものではな

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【394字】熊の足跡

【394字】熊の足跡

熊の足跡 都心の雑踏を抜け、山道を登る。趣味の写真撮影のため、一人で山に来たのだ。
 木々の間から差し込む陽光に目を細め、カメラを構える。その時、異様な足跡が目に入った。熊の足跡だ。興奮と恐怖が入り混じる。

 足跡を追う。心臓の鼓動が激しくなる。やがて、洞窟の入り口に辿り着いた。
 暗闇の中、何かが光る。近づくと、それは巨大な熊の彫像だった。彫像の目は宝石のように輝いていた。

 不意に、後ろか

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【289字】耳飾りの罠

【289字】耳飾りの罠

耳飾りの罠 私は都心の雑踏を抜け、古書店に足を運んだ。店主が差し出す一冊。表紙には『耳飾りの秘密』と記されている。

 開くと、一枚の写真が挟まっていた。耳たぶに光る銀のピアス。その裏には、謎めいた文字列。
 好奇心に駆られ、私は文字を解読しようと没頭した。すると突如、周囲の景色が歪み始める。

 目覚めると、見知らぬ部屋。耳元で冷たい感触。鏡を覗くと、あの銀のピアスが。
 扉が開き、店主が現れる

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【375字】眼帯の男

【375字】眼帯の男

眼帯の男 私は息を呑んだ。目の前の人物が振り返ったとき、その左目に掛かる黒い眼帯が、まるで深淵のように私を見つめ返してきたからだ。
 都心の雑踏の中、私はふと立ち止まっていた。何かがおかしい。そう感じたのは、通りすがりの人々の表情が、どこか不自然だったからだ。皆、同じ方向を見つめ、同じペースで歩いている。まるで操り人形のように。

 私は、人々の視線の先を追った。そこには、一人の男が佇んでいた。彼

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【358字】秋波の罠

【358字】秋波の罠

秋波の罠 窓越しに見える街路樹の影が揺れる。ふと目を上げると、向かいのアパートの一室で、カーテンが微かに動いた。気のせいか。私は再び本に目を落とす。
 ミステリー小説を読みながら、私は時折窓の外を見る癖がある。そんな折、隣家の老婦人が庭で転んでいるのを目撃した。慌てて駆け寄ると、老婦人は穏やかな笑みを浮かべ、「大丈夫よ」と言った。

 その夜、私は夢を見た。老婦人が若返り、艶やかな秋波を送っている

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【336字】朝焼けの幻影

【336字】朝焼けの幻影

朝焼けの幻影
 あさやけに染まる空を見上げ、私は足を止めた。都心の喧噪から逃れ、ひっそりとした路地に迷い込んでいた。

 その時、不思議な光景が目に飛び込んできた。路地の奥に、朽ちかけた洋館が佇んでいたのだ。あさやけに照らされ、幻のように揺らめいている。
 好奇心に駆られ、私は洋館に近づいた。扉は軋みを上げて開き、私を中へと誘う。
 薄暗い廊下を進むと、一枚の写真が目に留まった。そこには、私自身が

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【164字】竜巻の眼

【164字】竜巻の眼

竜巻の眼 都心の喧騒から離れた公園。私は木陰で読書に耽っていた。
 突如、空が暗転。目を凝らすと、巨大な渦が迫っていた。竜巻だ。逃げなければ。だが、足が動かない。渦の中心で、奇妙な光景が広がる。
 そこには、もう一人の私がいた。笑みを浮かべ、本を手にしている。目が合う。瞬間、全てが静寂に包まれた。

 私は、まだここにいるのだろうか。