【397字】神の目
神の目
私は目を閉じ、深呼吸をした。右手に感じる六面体の冷たさが、心臓の鼓動を加速させる。
「さあ、運命の神よ。私の未来を決めてください」
カタカタと音を立てながら転がるサイコロ。開けた瞼に映るのは、驚くべき光景だった。
サイコロ自体が展開し、六つの目が全て上を向いていた。そんなはずはない。でも確かに、そこにあった。
心臓が激しく脈打つ。頭がクラクラする。目を閉じ、開く。何度繰り返しても、結果は変わらない。
私は慌てて部屋を飛び出した。都心の雑踏に紛れ込む。人々の表情が、妙に歪んで見える。ふと空を見上げると、巨大な目玉が私を見下ろしていた。
震える手で、おもむろにカメラを構える。シャッターを切った瞬間、世界が一変した。
色彩が失われ、全てがモノクロームになる。人々が消え、建物が溶けていく。やがて、私の体も溶け始めた。
最後に残ったのは、一つのサイコロ……それは、ゆっくりと回転を始めた。