【358字】秋波の罠
秋波の罠
窓越しに見える街路樹の影が揺れる。ふと目を上げると、向かいのアパートの一室で、カーテンが微かに動いた。気のせいか。私は再び本に目を落とす。
ミステリー小説を読みながら、私は時折窓の外を見る癖がある。そんな折、隣家の老婦人が庭で転んでいるのを目撃した。慌てて駆け寄ると、老婦人は穏やかな笑みを浮かべ、「大丈夫よ」と言った。
その夜、私は夢を見た。老婦人が若返り、艶やかな秋波を送っている。目覚めると、隣家から悲鳴が聞こえた。駆けつけると、老婦人の姿はなく、若い女性が倒れていた。
警察が来て、私は事情を話した。すると刑事は「隣に住んでいたのは若い女性で、老婦人など存在しない」と言う。混乱する私。
その時、ふと気づいた。向かいのアパートのカーテンが、また微かに動いている。そこに映るのは……私自身の姿だった。