【375字】眼帯の男
眼帯の男
私は息を呑んだ。目の前の人物が振り返ったとき、その左目に掛かる黒い眼帯が、まるで深淵のように私を見つめ返してきたからだ。
都心の雑踏の中、私はふと立ち止まっていた。何かがおかしい。そう感じたのは、通りすがりの人々の表情が、どこか不自然だったからだ。皆、同じ方向を見つめ、同じペースで歩いている。まるで操り人形のように。
私は、人々の視線の先を追った。そこには、一人の男が佇んでいた。彼は、ゆっくりと私の方へ顔を向けた。左目の眼帯が、不吉な予感を掻き立てる。
その瞬間、世界が歪んだ。街並みが溶け、人々が消えていく。私は叫びたかったが、声が出ない。
気づけば、私は寝室のベッドの上にいた。夢……? しかし、枕元には見覚えのない一枚の写真。そこには、眼帯の男が写っていた。
私は慌てて起き上がり、鏡を見た。そこには、左目に眼帯をした自分がいた。