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記事一覧

花むけの言葉をあなたに

花むけの言葉をあなたに

授業中、先生にあてられた。
五年生の算数、立方体の体積の問題。
そうっと周りを見ると、みんな魂が抜けている。
ちんぷんかんぷんといった表情。
まあ本当は分かるけど、目立ちたくないしなあ。
渋々立ちながら、いつものように『分かりません。』と言おうとした。
すると、言葉の代わりに手からぽろぽろと出たのは、小さくてピンクの花だった。口をパクパクさせても声が出ない。
「うわっ。」
と言う周りの子たち。先生

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感情エクスプレス

感情エクスプレス

「光生!なにこのテスト!?」
ゲームをしている息子の目の前に、ゴミ箱に捨ててあったテストを突きつける。
100点中30点。
惨憺たる結果だ。光生は、ぎくりとした顔でヘッドホンを外し、
「いやぁ~・・・。」
と頭を搔きながら苦笑いをした。
「この点数は低すぎる!それに、テストは私に見せる約束でしょ!」
テストを見せたまま続ける。
自分が般若のような表情になっていることが分かる。そんな私の顔に怯んだの

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天使の羽

天使の羽

 『あそこに行けば、天使が迎えに来てくれる』
という、島に昔から伝わる言い伝えがある。
「一緒に行こうよ。」
君はそう言って微笑み、手を差し伸べてきた。
俺は黙ったまま、その手を握り返した。

ここに生まれた時点でいい人生は諦めた。
鬱蒼としたマングローブ。
蔦の這う苔むした地面。
年中暑く、雨がじとじとと降る。
そんなこの島にある仕事は、観光業と季節工ぐらい。
学もない金もない奴らばかり。
そん

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君はプレアデス⭐︎人

君はプレアデス⭐︎人

僕の住むアパートから徒歩五分。「プレイオネ」という新しいパン屋ができた。
早朝7時から開いている。
カフェコーナーもあるので、平日の朝、デュラムファインと惣菜パン、コーヒーを買って、食べてから仕事に行くのがお決まり。
小麦の素朴な甘みや香ばしさが味わえる素晴らしい店だ。
しかし、何より素晴らしいのは、一人で店を切り盛りしている彼女である。
人より頭一つ分飛び抜けた身長。すらっと長い手足。
くりくり

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テネラル

テネラル

 お見舞いに行った友人が透明になっていた。

「随分柔らかくなっちゃったよ。だから、まだ学校には行けない。」
と言い、友人はベッドに横たわったまま朧げに僕を見上げる。憂鬱にも眠そうにも見える微妙な表情だ。僕は、なんと声を掛けていいのか分からないまま、ベッドの傍に立ち尽くしていた。そんな僕の様子を見て、友人は「ほら」と苦笑いしながら手を開いて僕の方に向けてくる。肌が透明な膜のようになり、透かした向

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眠れない嵐の夜に

眠れない嵐の夜に

過去最強クラスの台風が近づいている。
どうなってしまうのか未知過ぎて、一周回って何をしたらいいのか分からない。
とりあえず缶詰やパン、水などは買いました。
特に、鹿児島・宮崎の皆さまは、今大変な状況にあると思います。
どなたにも被害がありませんように。お祈り申し上げます。



明日は仕事だというのに眠れない。
YouTubeの台風速報LIVEをずっと見ている。
どんどん膨らんでいく不安。
寝れ

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蛇にキス③

蛇にキス③

お酒を飲みすぎてしまったのだろうか。気づいたら薄暗い部屋の中。見慣れているような全く知らないような。ここはどこだろう。・・・あれ?

隣にはポールダンスをしていた彼女が座っていた。上から不敵な笑みで僕の顔を覗き込んでいる。
「うわ!」
僕は、思わず跳ね起きて彼女を正面からまじまじと見つめた。
月の光に照らされ、発光するうなじ。顎下で切りそろえられた黒髪。微笑みをたたえる血が透けたように真っ赤なくち

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蛇にキス②

蛇にキス②

恐る恐る扉を開けてみた。薄暗い廊下が続いて、奥からぼんやりとした光と、何やら賑やかな音楽が漏れ出している。扉のわりに中は意外と広いらしい。
「へっぴり腰しとらんで早よ進みィや。怪しい店とかちゃうから。」
とんと背中を押されて恐る恐る歩き出した。どんどん光と音が近づいてくる。行ったことはないが、クラブのようなところのようだ。
突き当りを曲がると、そこには嘘みたいに人でにぎわっていた。
「いらっしゃ~

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蛇にキス①

蛇にキス①

冴えない毎日。灰色の日々。
僕の人生、一言でいうとそんな感じ。受験は失敗し、滑り止めの大学にやっと入った。就職でも好きでもない仕事に就いた。会社行って寝て会社行って・・・。同じことの繰り返し。つまらない。彼女もいない。親にも孫の顔を見るのは諦められている。こんな状況なのに動き出せない自分のことも嫌だ。

***

「何か趣味とかあるん?」
仕事終わりに飲んだ帰り、唐突に上司から尋ねられた。

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猫に九生⑤

猫に九生⑤

手紙を恐る恐る開いた。

『猫には九つの命があると言われています。あなたなら、その命をどう使うかしら?
私は、教師として生きたい。
生まれ変わったのは、これで九回目。これまで綴ったのは私の人生です。よくここまで読んでくれましたね。
何度もあると分かりきった命。自分のために精一杯生きる動機なんてなくて、目的もなく自分の命を渡し続けているように感じていました。
でも、私はいつしか選択していたのです。教

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猫に九生④

猫に九生④

憧れの大人がいた。忘れもしない。中学校三年生の時の担任の先生。
私は、家庭環境があまり良くなかった。学校も休みがち。積極的に生きる意味を見出せず、毎日がどうでもよかった。
「どうせ私なんか、誰からも必要とされていない。」
なんて思い、自分の殻の中に閉じこもる日々。

そんなある日、先生から『うちへいらっしゃい。』と手紙が届いた。あんまり会ったことも無かったけれど、まあ、暇だし行ってみてもいいかな、

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猫に九生③

猫に九生③

三回目は、教師。
知識は生きる術だから。子どもたちがお腹を空かせず、理不尽な目に逢わずに生きていけるように。
「マオ先生。黒雲母は薄くて爪で剝がせるんですよ。透かして見ると、先生の目みたいにきらきらしてて綺麗でしょう?」
はにかみながら言う子。遥かに長く生きているのに彼らの持つ感性には敵わないなと思う。
教えているようで教えられる日々。
私は、よく彼らへ本を読み聞かせた。言葉は世界だ。新しい言葉を

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猫に九生②

猫に九生②

 二回目は、旅人。
世界中を飛び回り、様々なものを目に映す。コバルトブルーの海。赤青黄、何色でもいそうな魚たち。小鳥は囀り、蝶が舞う。
世界には壁も天井もなく、底抜けに美しいのだと知った。
「マオ、スモモの実やるよ。真っ赤に熟れて食べ頃だ。甘酸っぱくて美味しいんだぜ。」
そう言ってにかっと笑う彼。
いつの間にか行動を共にするようになった。
私の手を引いて、様々な場所に連れて行ってくれる。
「俺ァち

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猫に九生①

猫に九生①

 『猫には九つの命があると言われています。あなたなら、その命をどう使うかしら?
私は―。』

***

 一回目は、退屈な毎日。
あくびが止まらないぐらい、狭い部屋で同じことの繰り返し。
どうせ九つもある命だ。時間を無駄にしてもかまわない。
唯一、幸せだったのは、貴方が優しい声で、「マオ」と名前を呼んでくれたこと。
「ねえマオ、僕はもうすぐ死んでしまうよ。」
ベッドの上で月を眺めながら彼が呟く。

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