猫に九生⑤
手紙を恐る恐る開いた。
『猫には九つの命があると言われています。あなたなら、その命をどう使うかしら?
私は、教師として生きたい。
生まれ変わったのは、これで九回目。これまで綴ったのは私の人生です。よくここまで読んでくれましたね。
何度もあると分かりきった命。自分のために精一杯生きる動機なんてなくて、目的もなく自分の命を渡し続けているように感じていました。
でも、私はいつしか選択していたのです。教師という道を。教師とは、子どもという可能性の塊を、傍で見守り育むことを許された尊い仕事。子どもたちの成長の瞬間、そこから得られる感動は何にも代えがたい。子どもたちとの出会いは、私の胸に生きる意味を灯してくれました。私に本当の生をくれたのです。出会った皆様に心より愛を伝えたいと思います。
中でもあなたは、『かつての私と同じ目だ。』と感じました。生きる意味を見いだせていない空虚な眼差し。私は、どうしてもその目を変えたかったのです。今日、会うはずだったあなたの目は、きっと太陽の光を吸い込んだかのように煌めいていることでしょう。是非、お会いしたかったのですが・・・。
でも、あなたなら何があっても大丈夫。頑張ってくださいね。
さようなら、またお会いしましょう。』
先生は手の届かない場所に行ってしまったらしい。涙が零れ落ち、思わず胸を押さえる。ぎゅっと締め付けられるような痛みの中に、温かな灯火。ここには、先生から受け取ったバトンがある。
次は、私の番。
「舞桜先生から貰ったバトン、繋いでいきます。」
頬をふわり撫でる風。
『ずっと見守っていますよ。』
そう言われた気がした。