蛇にキス①
冴えない毎日。灰色の日々。
僕の人生、一言でいうとそんな感じ。受験は失敗し、滑り止めの大学にやっと入った。就職でも好きでもない仕事に就いた。会社行って寝て会社行って・・・。同じことの繰り返し。つまらない。彼女もいない。親にも孫の顔を見るのは諦められている。こんな状況なのに動き出せない自分のことも嫌だ。
***
「何か趣味とかあるん?」
仕事終わりに飲んだ帰り、唐突に上司から尋ねられた。
「・・・特にないっすね。」
「無さそう。君、毎日顔死んでるもんな。なぁ、いい所、行かへん?」
普段は、僕と同じように死んだ魚のような眼鏡の奥の瞳。この時ばかりは生き生きと煌めいていた。
「××さんに言われたくないっす。あとガルバとかは、僕興味ないですよ。」
うっさいわ違う違うと笑いながら、上司は、どこかに向かって歩き出した。
『僕、行くとか言ってないのに・・・。』心の中で呟きながらその後をついて行った。
「この先に、何か店でもあるんですか?真っ暗ですけど。」
「いいからいいから。」
どんどん細くて暗い道を進んでいく。まるで穴の中に入っていくかのような感覚。
「着いたで。」
上司はどこかを指さしながら振り返る。
失礼だが、聞くたびに胡散臭い関西弁だなあと思う。見た目とちぐはぐな感じ。まあ今は関係ないけど。
上司が指をさした先を見る。暗い路地裏に、安っぽく点滅する光が見えた。クリスマスに家庭で飾られるような電気の飾りが巻き付いた小さな丸い扉がある。
「・・・ここですか?」
「そうそう。何の店かは君が開けてからのお楽しみ。」
そう上司はにやりとしながら言った。