M.eri

私の、半径1mの世界。

M.eri

私の、半径1mの世界。

マガジン

  • 変態病院

    変態大集合のバラエティパック。 #変態病院

  • sauna

    あんなに苦手だったsauna。 克服シリーズ。#sauna

  • トラベルテラー

    #トラベルテラー おかしなM.eri旅行記。

最近の記事

  • 固定された記事

flavor

「eriみたいだな、これ」 濃度の高い水蒸気を、 呼気延長させながら、 口角をHaーーーと広げていく。 声の先を辿ると 彩香さんの視線はすでに遠く先を見つめている。 横浜駅西口から女性の速さで徒歩10分。 シーシャラウンジの店内には、 あちらこちらに水音が小さく響いている。 夜勤明けの耳に心地いいその音は、小さいながらも響きを持たせていて、jazzを連想させる。 今日も頭が痛い。 帰って眠りたいけど、結局彩香さんに連れられて、ここまできてしまった。 見晴らしの良い

    • one of the most

      頼む、無被害で、世界が消滅してくれ。 そんな矛盾を抱えて、私は 通勤電車に揺られる。 薄明かりの中で、今日も世界は始まってしまう。 隣に、「何言ってんだよ、」 の先に小気味いい返答をしてくれる友人がいたとしたら、私が今イチオシのこの男 「さんし」 だという自負がある。 ”遅刻はするし会社で居眠りするし、さっき聞いた話をすぐに忘れるなどビジネスパーソンとしては非常にまずい人間性をしているおれ”らしい、さんし。respect。 私は通勤2時間前から出発しちゃう、 小心者。

      • love letter

        「eri、結婚しよう」 2人きりのエレベーターの閉塞感の中、佐藤医師は、私の顔も見ることなく、こう言う。 「また言ってる」 チーンと、エレベーターの扉が開くと、彼は白衣をひらつかせて、気だるそうに聴診器の位置を整えながら、歩き出す。 私のことは振り返らずに。 私が入職した総合病院で働く佐藤医師は、 寡黙で、指示も的確な患者にも慕われる、 総合内科医だった。 いつしか2人きりになると、必ず行われる、真意のわからないプロポーズは、すでに5年の時を経ても、変わらず続いてい

        • flavor ーbe natural、

          flavor ーafter time 夜は、時に心を静かにする。 夜は、思ったよりも明るいし、 深くなる闇も思ったよりもずっと美しい。 うっすらと星は現れて やけに明るい月を眺め続ける 深夜0時。 車椅子に乗った日野大吾は、 私に連れられ、 病院の外の駐車場で夜空を浴びる。 右下肢切断術を受けた彼は、 膝から下の足がない。 普段装具をつけない時は、皮膚トラブル予防に切断された足の先に黒い靴下のガードを着用している。 「おにーさん、おにーさん」 私は夜勤中の自身の仮眠

        • 固定された記事

        マガジン

        • 変態病院
          22本
        • sauna
          3本
        • トラベルテラー
          2本

        記事

          トトノウを体験したい。応用編”no title”

          90℃。 腕に溢れるシャンパンを育む温度。 87℃でも、88℃でも、89℃でもない。 90℃。 優しく溢れる表面に立つ泡。 汗という名前のデトックス。 トトノウための優しいホップ。 それが90℃。 誰にも見せない、私のすっぴん。 一番むぼうびな私。 お気に入りのファンデーション。 お気に入りのアイライナー。 お気に入りのクリームチーク。 きらりきらりとした薄めなハイライトに 大人っぽいティント。 くるりとしたまつ毛も、真っ直ぐに伸ばして はだかに、なる。 それ

          トトノウを体験したい。応用編”no title”

          めぐみティコさんに特集して頂きました。

          「どうかしているとし課」 めぐみティコさんがご紹介してくださいました。 素敵な方です。 スタエフ聞いて、路地裏は、ファンタジーではないのだと安心しました。 彼女の紡ぐ言葉と文章に、 私は酔いしれています。 「モスキートの夜」五人目の戦士として、私の大事な患者様を、さらに昇華してくださるコメントに、涙が溢れました。 コニシ木の子さん、 暖かく見守ってくださる路地裏。 いいところだな。 ちょっとお休みしてたけど、また書いてみた。 久々の良い休日は、カラマーゾフと共に、n

          めぐみティコさんに特集して頂きました。

          sense

          私は、1人のnurseの生態を、 ここ一年ずっと観察している。 依田さんだ。 依田さんは某大学病院のER出身の エリートナースである。 あ、振り返った。 誰もいない廊下で、 時々彼女は悲しい顔をして 振り返ることがある。 時々、立ち止まり、 遠くから人を眺めていることがある。 人のことは言えないが、 彼女の挙動は、おかしい。 私は、物陰から彼女の挙動を窺っている。 時々話している内容に違和感はあるし、 目がキマッテイルこともある。 私は名探偵eri。 真実はいつも

          可能性を感じたい

          夜勤の仮眠時間は、日によってまちまちで、緊急入院が立て続けに入る時や、急変患者の対応、ナースコールの対応で、ほぼ16時間休みが取れないことが稀にある。 そんな時は、ナースステーションのありったけの椅子を並べてとりあえず足を上げ、一瞬だけ堕ちる、というスタイルを選択する。 次のナースコールがなるまで… 緊急オペのお迎えに行くまで… 救急車が到着するまで… どんなにアドレナリンが出ていても、 目を瞑ると一瞬で睡魔が訪れる。 ある、とても忙しい夜勤中の出来事である。 私はい

          可能性を感じたい

          肉球より愛を込めて

          以下の画像をご覧ください。 ここで、問題です。 ユキちゃんは、どれでしょう? @サモエドカフェ アル 横浜中華街 元町・中華街駅1出口から徒歩約4分 · 日本大通り駅3出口から徒歩約7分 平日は1時間2200円〜ネット事前決済。 ディアー  疲れたあなたへ。 イヌ・サモエドによる、最高なエンタメはいかが?

          肉球より愛を込めて

          山旅レポート

          「大自然において、人間は浅はかな生き物だということを、つくづく感じる。山にとって、人間は、ただのゴミに過ぎないんだ。死体を担いで下山することもある。死んでいるかもしれない人間の跡を辿ったこともある。オレたちは、自然の一部を借りて、お邪魔しているに過ぎないし、自らの罪意識の贖罪に訪れていると思うのは、傲慢さの極みだ。でも、生きることを教えてくれる。物であるような、オレたちの肉体の行く末なんてものは、誰の興味にも引っかからないんだよ。そうして、山はいつだってそこにあって、古くから

          山旅レポート

          真夜中をあるく

          待ち合わせは横浜駅北口の韓国料理屋。 JRの改札を抜け、はて、北口なんてあっただろうかと疑問に思いながら人混みの流れを邪魔しないように歩き出す。 おもむろに、黒のパンプスのサイズが合わない気がして落ち着かない。歩きながらつま先をコンコンと冷たいタイルに打ち付けて、そうか、これで丁度いいのか。私はこれで間違っていなかったと言い聞かせる。ふっと息を吐き、 人混みに溶け込む。 そうして、ゆっくりと、 存在を消して、周囲を歩く人に馴染んでいく。 そんな安心感が得られるから、 私は

          真夜中をあるく

          エナジーバンパイヤ。  ただのエナジーに変わる。

          「eriさん!!大変です」 エナジーパンパイヤのその後である。 彼は急変に遭遇する。 泡をふく患者。 吐物が溢れている。 オロオロとする彼。 状況を聞いて処置にとりかかる。 彼の発見で、ことなきを得た。 エナジーパンパイヤは、俯いている。 彼はいま、一回り、小さい。 「見つけてくださり、ありがとうございます おかげでことなきを得ました。」 バンパイヤ田所は、震えている。 そんな今日の午前中。 「怖かったです。」 彼はポツリと言った。 怖かったのかもしれない。 不安

          エナジーバンパイヤ。  ただのエナジーに変わる。

          エナジーバンパイヤ

          「はぁー」 「はーぁ」 「はーーーぁぁあ」 ”はい、吸ってくださーい” 私は、ため息回収係だ。 「ちょ、違うよ、腰たいして、の”はぁー”よ」 ”審議ですね” ”んー、判定負けです” ”あなたは、今15年分のhappyを放出致しました、残念です” 毎日、こんなことを繰り返している。 「eriちゃん、最近厳しくない?」 そう、私は最近周りに厳しい。 ビシビシと、 ため息を取り締まる、 ため息回収がかりである。 最近、中途入職の男性職員が入った。 院内は、そ

          エナジーバンパイヤ

          あなたは、誰ですか。

          生きていて、不便だなぁと思うことがある。 「初めまして」 と自己紹介されても100%顔と名前が 覚えられないこと。 車を運転していて、 助手席の人に「そこ右」と 言われると左に行っちゃうこと。 じゃんけんの一発目は、 必ずチョキを出してしまうこと。 エスカレーターを降りる時にうまくタイミングが合わず、結構な序盤から前屈みになって、降りるタイミングを測っていること。 と言っても、この中で特に不便なこと、 それは圧倒的に人の顔と名前が 覚えられないということだ。 以前、

          あなたは、誰ですか。

          プロローグ

          「物語は、いつからでも、始められる。 それが、人生でしょ?」 私が大好きな患者様の言葉だ。 私は、夜が朝に変わる、 曖昧な時間の空が大好きだ。 5時半。 夜勤明けの朝、 私は外のゴミ捨て場までゴミを捨てにいく。 看護師の仕事ではない。 だだ、私が外に空と外気に触れに行くことを 数人のスタッフは知っている。 そっと、廊下にある捨てやすいゴミ を持って 私はゴミ捨てに行ってきまーすと声をかけ、 外へ行く。 一晩中院内に籠るのは、正直辛い。 時々、ゴミ捨て場でゴキブリと遭

          プロローグ

          モスキートの夜

          世界中の雨を凝縮したような台風の影響は、 各地に広がっていた。 カーテンを開けながら、 個室で入院されている吉井さんに話しかける。 「今夜はひどい雨ですね」 ベッドの上で横になっている 吉井さんは、話さない。 吉井さんは、 話せない訳ではないし、 動けない訳でもない。 ただ、だんだんと病気も進行して、 体力も衰え、 一日中ほぼ、傾眠状態だ。 私は話しかけ続ける。 「録画の野球、つけておきますよ。 それともNHKにします?」 吉井さんは返事をしない。 「汗を、少し

          モスキートの夜