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あなたは、誰ですか。

生きていて、不便だなぁと思うことがある。
「初めまして」
と自己紹介されても100%顔と名前が
覚えられないこと。


車を運転していて、
助手席の人に「そこ右」と
言われると左に行っちゃうこと。


じゃんけんの一発目は、
必ずチョキを出してしまうこと。


エスカレーターを降りる時にうまくタイミングが合わず、結構な序盤から前屈みになって、降りるタイミングを測っていること。

と言っても、この中で特に不便なこと、
それは圧倒的に人の顔と名前が
覚えられないということだ。

以前、唯一の友人、
香織とお酒を嗜んでいた時の話だ。

ワンワンワン!!
「ねぇ、イヌ鳴いてっけど?」
香織はタバコの煙を吐きながら気怠そうに言う。

「あ、ごめん、電話みたい」

「ちょ、待てよ、にんじんって誰だよ?」

私は着信音を”犬の遠吠え”にしている。
犬の遠吠えの先には、スマホがあり、その画面には”にんじん”と表示されている。

私は今、
にんじんから電話がかかってきているのだ。

私は、”にんじん”に覚えはなかったが、とりあえず出てみる。むかーし連絡先を交換した、女友達だった。電話を終えて、思い返してみても、私の中での彼女の顔認証は、
やはり”にんじん”だった。

ワンワンワン!!!
また、着信が鳴る。
画面を見ると、「マフィア」と書いてある。

「あたしのどこら辺が”マフィア”なのか、一晩じっくり聞かせろや」香織は元ヤンである。

私は、電話帳の名前は勝手に
変えるもんじゃないなぁと反省した。

人には、顔の特徴がもちろんあるだろうが、
私はダントツ、その人のまとう雰囲気を頭に叩き込むようにしてる。

時にそれは、自身へのトラップに繋がるのだが、
その何となくのイメージのみを頼りに、私は生きてきた。ただ、強烈な顔面のみは、
やはり、
イメージの向こう側になり得る場合もある。


大抵は、「田中風の加藤」や、
「チャリ通の優しい任侠」
「芝刈り機」
と言った、
ありふれたネーミングをつける。

ワンワンワン!
着信だ。

時折、全く想像もつかないまま、
着信に出ることは、ギャンブルだなぁ、
とも、もちろん思っている。
そんな時は迷いなく、質問する。
「あなたは、誰ですか?」と。
着信画面には”ブリーフ”と書いてある。
どの、変態かな?


とある病院に、
転職したばかりの時の話である。


「eri、眼科の竹田先生に10分後電話してもらっていい?今家族が早めに到着して待ってるの。
その頃には、オペも終わるはずだから、
よろしくね!」

中途の私の指導を担当してくれる、
美しナースのGUCCIだ。
(高級デパコスの香りがGUCCIを連想させる)

ちなみにこの方の名前も
しばらく覚えられなかった。

「はーい、よろこんでー」
私は使っていた電子カルテのマウスパッドに、
付箋でメモ書きをした。


ナースコールが鳴る。
「どうされましたか?」
応答がない。
私は、走る。

看護師になって、1番に教わること。
ナースコールに出て、応答がない場合は、
その部屋まで走れ。
患者様の急変かもしれないからだ。

結局、
ナースコールがベッドの間に
挟まってしまっただけだったようだ。

患者の榎本様は、
ごめんね〜
走らせちゃって〜
と申し訳なさそうにしている。


「いえいえ、では」
不思議なもんで、
患者様の名前と顔は、一発で覚える。
仕事において、私の興味は、
きっと、患者様のこと以外はゼロ
なのだということを転職の度に思う。




そろそろ、先生に電話しなきゃと思い、
ナースステーションに向かう。


あ。

私が使っていたPCを白衣を着た
誰かが使っている。

「eri、電話してくれたんだね、ありがと、
竹田先生思ったより早く来てくれたね。」

私はブルブルと、震えた。
白衣を着た医者は、眼科の竹田医師だった。
彼の使っているPCのマウスパッドには、
黄色の付箋にマッキーで、
デカデカと私のメモが書かれている。


ゴルゴ13に電話する


と。

モスキートは、今日も元気に働きにいきます。
みなさんにとって、素敵な日になりますように。







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