【小説】紙に畳んで
和志くんへ
お返事の手紙を何度も読みました。
丁寧に伝えてくれて本当にありがとう。
私は、和志くんの正直な告白、
その誠実さに胸を打たれて、
もう一度だけ、
お伝えしなきゃいけないことが出来ました。
結論から申し上げると……
あなたは、決して悪くない。
和志くんのせいで、
大地が亡くなったわけではありません。
あの千羽鶴は、
雑に捨てることなど出来ませんから、
神社の宮司様にご相談して、
先月お焚き上げしました。
全校生徒の皆さんで
折り鶴を作ってくださった喜びは、
今も胸の内に残っています。
純粋な善意として受け取った一方で、
皆さんが同じ気持ちではないことは、
当時からもちろん分かっていました。
ラグビーでちょっと有名なだけで、
大地と関わりのあった生徒は、
百人もいなかったでしょうし、
回復を本気で祈ってくれた子は、
一握りだったと思います。
そして、密かな悪意を折り紙に込めたのは、
きっと和志くんだけではなかった。
大地は、私の知らないところで、
部員のお友達に
思い上がった態度を取っていたんですね。
自分が引っ張っていかなきゃ、
周りを鼓舞しなくちゃ、って気持ちが、
おかしな形で出てしまったのかな……
親として、申し訳ない気持ちです。
特に、和志くんには。
大地が最期まで後悔していましたから、
とんでもないことを
言ってしまったのでしょう。
繰り返しになってごめんなさい。
大地は、元気になったら
謝るつもりでいました。
私が病床の息子に諭したのは、
言葉の大切さで、
「口から出た言葉は口に戻せない」
ということでしたが、
今すぐに、
手紙でもいいから謝るように
諭せなかったのは、
まだまだこの子には未来があると、
強く思い込んでいたからです。
容体の急変は、
私たち家族にとって
筆舌に尽くしがたい無念ですが、
お医者様たちは、
懸命に治療してくださいましたし、
誰も悪くありません。
生きていることが当たり前ではなく、
生と死はやはり紙一重です。
私の兄は、
若くして交通事故で亡くなりました。
あの時も、
生死を分けたのは紙一重の差で、
神様しか知りえない運命です。
和志くんの書いた言葉が、
言霊として、
運命を変えうる力を持ったとしても、
私たち家族は、
それを完全に打ち消す
物凄い力で回復を祈りました。
どうか生きていてほしいと願いました。
たとえ百万人に呪われても、
私たちは跳ね返した自信があります。
大地本人も、
病に打ち勝とうと戦っていました。
つまり、どれほど強く、
生きたいと願っても、
死がやって来ることはあります。
誰しも、明日は大丈夫と思いがちですが、
明日は疎か、
今日限りの命かもしれません。
だからそれまで、
和志くんには精一杯生きてほしい。
その為に、
大地のことを忘れないでほしい。
人生に投げやりになりそうな時、
生きたくても生きられなかった
同級生を思い出してください。
大地と和志くんの、
かつて敵対した気持ちはノーサイドです。
私は、そんな言霊をこの手紙に折り畳んで、
あなたに贈ります。
大地の母より
※以上、本文1200字
本稿は、秋ピリカグランプリ2024の応募作として、「紙」をテーマに800~1200字というルールのもとで執筆いたしました。