断たれた指の記憶 《#春ピリカグランプリ個人賞受賞作》
「じいさん、天国でゆっくり休んでな」
祖母は優しく声をかけ、そっと棺から離れた。
火葬場の係員が点火ボタンを押す指先を、私は直視できなかった。
親が離婚してから、私はよく祖父母の家に預けられた。ピーマンも食べろなんて言われないし、玩具を片付けなくても叱られない。
だけど心地よい記憶の中に、僅かに抜け落ちたパズルのピースがあるような気がして、時折指先がむず痒くなる。
祖母が居ない日曜。
祖父と二人きりの曇天。
かくれんぼしようと言い出したのはどっちだったか。
農具置き場の蔵