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Tale_Laboratory
2024年1月31日 07:55
白衣。それは清廉にして清潔の象徴。ナースたちは日々、院内の病気や怪我を全て祓うがごとく働いている。その白き衣装はまさに黒き悪魔と戦うための戦闘装束とも言えた。そして彼女たちにはまた別の顔があった。「総員、これより作戦を開始する」その声にナース服の集団が一段と背筋を伸ばす。彼女たちの立つ床は先程から上下左右に揺れているが、誰一人として体は直立不動であった。ここは、動く病院。帝国野戦病院
2024年1月30日 08:10
男の戦いもある。女の戦いもある。私は今、まさに女の戦いに挑もうとしている。朝6時から列に並ぶこと既に3時間。今日は有名コスメブランド『キスピサロ』の新作が発売される日だ。並んでいるのは私と同じ、コスメガチ勢の面々だ。いつだったか、ホビーショップの前に朝早くから並んでいる男性たちの姿を見たことがある。どうやらカードゲームの新作パックの発売日だったらしいが、私にはその時は理解できなかった。
2024年1月29日 08:12
人々は歓喜の渦の中でただ踊っていた。長い夜が明け、新しい朝が来た。長らく世界を覆っていた暗雲。強大な力で支配を続けていた魔王が倒れたのだ。魔王の支配が続いた10年、人々は苦しみながらも耐え、悲しみながらも抵抗し、自分たちの力を付けた。かつて100年前にも別の魔王が君臨していた時代があった。その時の教訓を生かしながら、人々はついに魔王を打ち倒したのだ。物語に出てくるような勇者はいなかった。
2024年1月28日 08:48
今年はここにできたか。毎年多少位置が変わるのはやっかいだ。大した違いではないが、何せ周りの景色があまりに変化に乏しいから、探すのは一苦労なのだ。辺り一面の雪景色。大地の白と空の青の2色だけが今の世界の色だ。平らな雪の絨毯の上に、明らかに異質な物がある。それは四角だったり、ドーム状だったり形は様々だ。それらは不規則にいくつも並んでいる。これは町だ。白い雪の大地の上に作られた、雪の家々。
2024年1月27日 08:03
1000年続く平和な魔法国家があった。そこには「賢者の石」と呼ばれる物があった。だが、その形状や色などは一般の国民は知らず、極一部の者だけが詳細を知っている。人々が知っているのは、賢者の石には何かの意志のようなものが宿っており、それが未来を予知し、人々に適切な助言を与えてくれるというものだ。その助言に従ってきたので、長い時代この国は平和を保ってきたのだった。国民たちは産まれたときから一人
2024年1月26日 08:11
まさかこんな所に集落があるなんて。彼が最初に抱いた感想はそれだった。噂だけを頼りに、県と県の境にある、最後に整備されたのはいつだろうかと思わせるようなガタガタのアスファルトの、辛うじて獣道とは呼ばれない程度の道路を進んで行った先にその集落はあった。彼、坂田はアニメ制作を指揮するプロデューサーだった。新作の構想のために全国各地を巡っている。2100年、日本は相変わらずアニメという分野では他国
2024年1月25日 09:00
戦闘の一番槍。これこそ男の誉。彼ら、レイストラント軍1番隊は、皆その誇りを持っていた。彼らの街は、山脈の谷間にある。東西に壁のように岩山がそびえ立っているその谷の街には定期的に魔物が襲撃してくる。正確には谷の北から南へ産卵のために通過するその通り道に街ができたのだが、その際に魔物を倒し、牙や鱗など、他の地域で加工される素材を取って輸出するのが主な産業だ。そんな重要な獲物である魔物たちを倒す
2024年1月24日 08:59
今、地球の人々は一体となっていた。役所の前に集まった人々はまるで一つの大きな体の生き物みたいにうごめいている。群衆はそれぞれプラカードを持っていたり、拡声器を持っていたりするが、共通しているのは皆怒りの感情を表していることだ。彼らが行っているのは反対運動だった。理由は新たなゴミ集積場の建設についてのものだ。自分たちの住んでいる所の隣にそんなものが建つことに反対する人々が怒気を荒げているの
2024年1月23日 08:08
朝が来る。太陽が昇る。私はベッドから起きて朝食を取る。何も変わらない。そう、地球と何も変わらない。私は長い旅を経てこの星へと辿り着いた。驚いたのは、青い空、緑の大地、青い水。自然は地球とほぼ同じ。細かな所に違いはあるが、成分は地球産のものとほぼ同じだ。そして、この星に住む人間もまた地球人とほぼ同じ。頭があり、胴体があり、左右一対の手足がある。違いと言えばこの星の人間は右手が4本指、左手が
2024年1月22日 07:45
朝の光に照らされて、大地一面に敷かれた純白の絨毯が輝いている。「だいぶ寒さも落ち着いてきたねえ」「ええ、昨夜から雪も弱くなりましたし」ご近所さん同士が天気について語るいつもの挨拶。「このまま雪も融けてくれるといいんだけどねえ」「そればかりは、女神様次第ですかね」二人して空を見上げる。今日の空は青く澄み渡って、どこまでも広がっている。「今日は女神様ご機嫌みたいだ」この世界は二人の女神
2024年1月21日 08:54
人は自由に行動できる。とは言え、何もかも好き勝手にやっていいというわけではない。特定の行動をするためには、特定の許可がないといけない。医療行為をする人は医師免許が必要だし、車を運転する人は運転免許が必要だ。誰でも自由に医療や運転ができるようにしてしまったら、大変なことになるだろう。だからこそ、ある程度のハードルを課すことで治安の安定化も図るのだ。「えーと、次は、と」彼、キクガワは今
2024年1月20日 08:12
「トオノ・リュウセイだな」男は自分の名前を呼ばれたことに対して、ただ頷くことしかできなかった。今、トオノがいるのは狭い、机と椅子を置くだけで一杯になってしまうような部屋だった。そこにトオノと、黒服の男が二人。二人ともヤクザのようにには見えないが、かと言ってサラリーマンのようにも見えない。普通に休日を過ごしていたところ、突然現れたこの二人にトオノは無理やりここまで連れてこられた。同意などあっ
2024年1月19日 08:08
ふと目が覚める。窓から微かに光が入ってくる。ベッドから上半身だけ起こしてカーテンを開く。差し込んできた光の正体は、星の光と雪に反射した月の光だった。「だいぶ雪が弱くなってきたな」吹雪く雪が風に流されていく。だが、流れているのは風のせいだけではない。この窓自体が動いているからだ。越冬列車・カムスプリング号。一年を通して雪が消えない大陸がある。ただ雪が消えないと言っても、人が暮らせないほどの
2024年1月18日 09:22
男は逃げていた。何から?それは分からない。だが彼は、今自分を追ってきている者が自分の命を狙っていることだけは分かった。なぜ自分が?命を狙われる理由は?逃げながらも頭の中はフル回転中だ。しかし理由は出てこない。彼は自分で言うのも何だが、これまで真面目に生きてきた。誰かの恨みを買うような真似はしてこなかったはずだ。だが、今の状況はそれを全て否定しているかのようだった。「何だってんだ、一体」