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空想お散歩紀行 冬限定の交わり

今年はここにできたか。
毎年多少位置が変わるのはやっかいだ。大した違いではないが、何せ周りの景色があまりに変化に乏しいから、探すのは一苦労なのだ。
辺り一面の雪景色。大地の白と空の青の2色だけが今の世界の色だ。
平らな雪の絨毯の上に、明らかに異質な物がある。
それは四角だったり、ドーム状だったり形は様々だ。それらは不規則にいくつも並んでいる。
これは町だ。
白い雪の大地の上に作られた、雪の家々。
ここに住んでいるのは水の精霊たち。
彼?彼女?たちは、冬の一時期しか会うことができない。
他の季節は大気中の水蒸気のような状態で存在しているので、その姿を確認し、コミュニケーションを取ることができない。
冬の間だけ、水の精霊たちはその体が固形化するのでそこで初めて私のような人間でも意思疎通が取れるようになる。と言っても、精霊言語を学んだ魔術師でないと難しいが。
私の目的は彼らと交流することで精霊界の研究を進めることと、彼らが持っている精霊石などの道具をもらうことだ。代わりにこちらからは様々な水を提供することになる。
砂糖水や、花などから抽出したエキスを使った香水など、精霊たちでは作れない品々だ。
町の中に入ると、そこかしこに青白い色の人々がいる。それが冬の間だけの水の精霊の姿だ。人間の形をしているが、所々液体のような揺らめきがある。ちょうど氷と水の中間のような感じだ。これも毎年のことである。
ただ面倒なのは、毎年彼らとは初めましてと
なることだ。
何せ水の精霊だ。水は流れることがその本質。去年の冬に会った水の精霊は、その後季節が変わり、一年をかけて流れ続けた結果、今年の冬に形を成す時には全く別の個体になっている。
だから、毎年この町に来るたびに自分の目的を一から説明しないといけない。
ほら、私が町に入ったことでここで一番偉い町長的な精霊の個体が来た。これも毎年のことだ。
雪の上に跪き、最も深い尊敬の姿を示す。この後こちらの話をすることになる。
これが、一年に一度の精霊たちとの交流の始まりの儀式みたいなものだ。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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