空想お散歩紀行 全ての戦う女たちの唄
男の戦いもある。女の戦いもある。
私は今、まさに女の戦いに挑もうとしている。
朝6時から列に並ぶこと既に3時間。
今日は有名コスメブランド『キスピサロ』の新作が発売される日だ。
並んでいるのは私と同じ、コスメガチ勢の面々だ。
いつだったか、ホビーショップの前に朝早くから並んでいる男性たちの姿を見たことがある。どうやらカードゲームの新作パックの発売日だったらしいが、私にはその時は理解できなかった。
だが、先日ネットでコスメとカードゲームの共通点を話す人がいて、私の理解は一気に深まった。
そうなのだ。決して値段が高かったり、カードで言うところの能力が高かったりするだけでいいとは言い切れない。
コスメにもカードにも、相性や組み合わせ、シナジーなど考えることは山のようにあり、その数えきれないほどの組み合わせの中からさらに自分の好みやら価値観やらに合うものを探すとなると、これはもう探究と言ってもさしつかえない。
まあ、高いコスメが良いのは間違いないし、欲しいのも間違いないのだが。
さらには、自分には合わないと思っても、その商品自体のデザインが良かったりすると、とりあえず手元に置いておきたくなる。これもカードゲームのプレイヤーと通ずるところらしい。
そしてカードゲームの方には、種族とか属性とかの要素もあるらしいが、これも共通している。
コスメの世界も様々な種族向けの物があって、さらに複雑になっているのだ。
今日私が狙っているのは、エルフ族向けのファンデーションだ。
あの粉雪のようにきめ細かいエルフ族の肌を視野に入れた新作。
私はれっきとした人間族だが、欲しい物は欲しいのだ。実際、今この列に並んでいる種族も人間族だけじゃなく、ホビットやゴブリン、ハーピーだっている。
その種族向けに作られたコスメは、使い方次第で他の種族にも十分使えたりするのだ。
例えば、血色が良いように見えるゾンビ族のファンデーションやチーク。
人魚族やウンディーネとかのための水に強いリップ。
ゴーレム族のゴツゴツの肌にも潤いを与える化粧水やクリーム。
あらゆる種族の女たちのために作られたコスメを組み合わせて、この社会の中で戦うのが私たちなのだ。
ちなみに私のお気に入りのコスメデッキは、人間5、フェアリー2、スライム1、ゴースト1、ラミア1の割合だ。
このデッキ構成は流行や年齢によって変わってくる。
私ももっと若いときは、天使族コスメとかサキュバスコスメを使っていたが、さすがにもう使えない。悲しくもあり、新しい開拓をする楽しみでもある。
さて、開店まであと5分。列に並んでいる人たちの雰囲気もだんだんと戦闘態勢へと入っていく。
もうすぐここは戦場へと変わるのだ。
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