空想お散歩紀行 ふと目が覚めた雪の中で
ふと目が覚める。窓から微かに光が入ってくる。ベッドから上半身だけ起こしてカーテンを開く。
差し込んできた光の正体は、星の光と雪に反射した月の光だった。
「だいぶ雪が弱くなってきたな」
吹雪く雪が風に流されていく。だが、流れているのは風のせいだけではない。この窓自体が動いているからだ。
越冬列車・カムスプリング号。
一年を通して雪が消えない大陸がある。ただ雪が消えないと言っても、人が暮らせないほどの豪雪が振る時期とまだマシな時期が大陸の各所で違う。カムスプリング号は激しい雪から逃げるように大陸中を移動し続ける列車だ。
この列車に乗っているのも、それぞれの事情があってこの雪から逃げている者たちである。
「目が覚めてしまったな」
まだ朝までには時間があるが、このまま布団に戻ってもすぐには眠れそうにない。
男は少し部屋を出ることにした。
この列車には客室が他にいくつもある。
他の乗客たちは眠っているだろうから、静かにドアを開けて廊下に出た。
雪を溶かしながら走る列車の揺れは穏やかで、人によっては心地よい揺りかごだろう。
「確か、一晩中開いてるバー車両があったはずだよな」
基本ずっと移動し続ける列車の中では娯楽は限られる。昼はカフェ、夜はバーとして開店している車両は乗客たちの憩いの場だった。
「ちょっと行ってみるか」
こんな時間に誰がいるとも知れないが、また眠くなるまでの時間つぶしにはちょうどいいかもしれない。
男はバー車両に向かって歩き出す。外は相変わらず月に照らされた青白い雪が一面に広がっている。
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