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空想お散歩紀行 獲物の相手は丁寧にじっくりと

戦闘の一番槍。これこそ男の誉。
彼ら、レイストラント軍1番隊は、皆その誇りを持っていた。
彼らの街は、山脈の谷間にある。東西に壁のように岩山がそびえ立っているその谷の街には定期的に魔物が襲撃してくる。
正確には谷の北から南へ産卵のために通過するその通り道に街ができたのだが、その際に魔物を倒し、牙や鱗など、他の地域で加工される素材を取って輸出するのが主な産業だ。
そんな重要な獲物である魔物たちを倒すための戦力がこの街レイストラント独自のレイストラント軍である。
「よし、時期的にオウミードラゴンが来る時期だ。準備はぬかりないな」
レイストラント軍1番隊隊長、サワヤは自慢の斧を担ぎながら部下たちに声を掛ける。
「ええ、いつ来てもいいですよ」
「あいつの牙と鱗とたてがみはいい金になりますからね」
部下たちは軽口を叩いているが、オウミードラゴンは決して生易しい相手ではない。
冒険者ギルドだったら最低でも10人以上はクエストのために集めるくらいの魔物だ。
「おいおい、俺たちの仕事を忘れんてんじゃねえぞ」
サワヤが部下たちに苦笑いを向けていたその時、大きな声が響き渡った。
「来たぞーーーッッ!!」
見張り役の声。その一声だけで、それまで緩んでいた彼らの表情が一瞬で固くなる。
「よし!行くぞお前ら!」
それぞれが手際よく武器を用意し、決められた位置に立つ。
「数は!」
「3体です!!」
「よーし、狙いは先頭のやつだけだ!後の2体はそのまま通せ!」
短い言葉で命令を伝える。全ての魔物を狩りはしない。絶滅させてしまっては元も子もないからだ。
翼の音が次第に大きくなってくる。その音が自分たちの真上を抜けようとしたその刹那。
「撃てーーッ!!」
号令と共に射出されるのは、先端が鋭い槍となっているロープ。それはドラゴンの体に食い込み、動きを止める。
激しい叫び声を上げるドラゴンだが、これくらいでは軽傷にもならない。
「よし!飛びかかるぞ!やつの血には触れるなよ、毒だ!」
先程の槍付きロープが原因で流れ出た血を避けながら彼らはドラゴンに向かって跳躍し、そしてそれぞれ手持ちの武器で攻撃を仕掛けた。
斧でハンマーで、金棒でドラゴンの体の至る所に攻撃を加えていく。そして、
「これくらいでいいだろう!お前ら退くぞ!
槍を抜け!」
サワヤの合図と同時に部下たちはドラゴンから距離を取り、足止めのロープが外される。
ドラゴンは受けたダメージの影響で、先程よりかは勢いが弱まってはいたが、それでも力強く翼を空に打ち付けると街の方へと向かって行った。
それを満足そうに眺める1番隊の面々。
「これで今日はごちそうにありつけますね」
「ああ、酒は準備できてるんだろうな」
「それはドリンク隊のやつらに言ってもらわないと」
ここレイストラントは魔物たちから素材を取り、輸出することが産業だが、それは牙や鱗などの外部の素材がほとんどだ。
中身、肉などの食べられる部位は長距離輸送に向かないため全てこの街で消費される。
彼ら1番隊は魔物と最初に戦い、弱体化させるのと同時に、『準備』をするのが仕事だった。それゆえに彼らは『下ごしらえ隊』とも呼ばれている。
血抜き、肉を叩いて柔らかくする、下味を付ける。
実は彼らが持っている武器には調味料や香辛料などが付加されており、攻撃と同時にそれらを魔物の体へと擦り込む役割も持っていた。
この後は、切ったり、煮たり、焼いたりとそれぞれの調理に応じた部隊があのドラゴンの相手をするだろう。
どんな魔物、どんな料理を作るにせよ、彼ら1番隊、下ごしらえ部隊の仕事は最も重要と言っても過言ではない。
どの部隊も自分の隊が一番重要と言ってはいるが。
この特別な魔物料理がこの街の名物でもあるので、これを食べにわざわざ遠方から来る者も後を絶たない。
1番隊がオウミードラゴンの相手をしてからおよそ1時間後、街の方から香ばしい香りが彼らの元へと漂ってきた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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