空想お散歩紀行 夏と冬の攻防
朝の光に照らされて、大地一面に敷かれた純白の絨毯が輝いている。
「だいぶ寒さも落ち着いてきたねえ」
「ええ、昨夜から雪も弱くなりましたし」
ご近所さん同士が天気について語るいつもの挨拶。
「このまま雪も融けてくれるといいんだけどねえ」
「そればかりは、女神様次第ですかね」
二人して空を見上げる。今日の空は青く澄み渡って、どこまでも広がっている。
「今日は女神様ご機嫌みたいだ」
この世界は二人の女神が君臨している。
冬将軍、ウィンリーターンと夏魔皇、サン・サマー。
この二柱の女神は仲がすこぶる悪く、この世界が創世された時から喧嘩を繰り広げているという伝説である。
そして世界の気候は全てこの女神どうしの戦いによって決まっている。
ウィンリーターンの力が優勢な地域では雪が降り、寒くなる。サン・サマーの力が優勢な地域はその逆で暑く、太陽が照りつける。
「雪が無い所に住みたいね。暑すぎても嫌だけど」
「そんなところ、私たちみたいなもんが住めるわけないでしょ」
自嘲気味に二人は笑う。
二人の女神の戦いが拮抗している地域は、この世界ではわずかな土地にしかない。
代表的なのはスプリン郡や、オーターム州などだが、そのような土地は金持ちか地位の高い人間しか住めない場所なのだ。
「まあ、このままの状態が続いてくれるだけで御の字・・・って、あれ?何かあったかくなってきてない?」
「そうですね・・・って、まさか!早すぎじゃない!?いつもならこの時期はまだ・・・ッ!」
「そんなこと言ってる場合じゃない。早く夏の準備を!」
慌てて二人は自分の家へと向かう。他の家でも慌ただしい声や音が聞こえてきていた。
女神たちの戦いは、常に一進一退。優勢になったり劣勢になったり。しかしそれはそれは永い時を経て戦っているから、人々は何となく戦いのリズムを知っていた。
だがそれはあくまで目安であって、喧嘩は水物、状況はどう転ぶか分からない。
その日の村の気温。午前中5℃、午後27℃。
そして一週間夏が続いた後、また冬に戻った。
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