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空想お散歩紀行 物語の道

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空想の世界の日常を自由に描いています。
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2023年10月の記事一覧

空想お散歩紀行 封印商店街

空想お散歩紀行 封印商店街

その場所はまさに寂れたという表現がふさわしかった。
雨を防ぐアーケードはあるものの、所々に穴が空いている。
地面に敷かれたタイルの隙間からは、雑草がたくましく生えており、その力強さが逆にこの場所の静けさを強調していた。
アーケード下の通りの両脇には建物が軒を連ねている。しかし、そのどれも入口となる正面にはシャッターが下ろされていた。
どこからか風が吹いてきたせいだろうか、シャッターたちがカタカタと

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空想お散歩紀行 人手は減り、悪事は増える

空想お散歩紀行 人手は減り、悪事は増える

世の中から問題が消えることなど一瞬としてない。本当に深刻な問題ほど、人々の目には触れないほど、モグラのように地下深くに沈むものだ。
だが、今世間の人々の話題に上がる問題も決して無視はできない。
その一つが人手不足である。
「これが作戦だ」
薄暗い部屋の中。ランプの灯りだけがそこにいる男たちの輪郭を微かに浮かび上がらせる。
「これで明日の今頃は大宴会だ」
彼らが木製の机の上に広げられた地図を見ながら

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空想お散歩紀行 デストロイ・オア・トリート

空想お散歩紀行 デストロイ・オア・トリート

お菓子の国。あらゆる物がお菓子で作られている夢の国。
ビスケットの道路に、キャンディの街灯が立ち並び、チョコレートやケーキで造られた家が建っている。
女王が統治しているこの国では、日々いかに美味しいお菓子を作れるかに人々の力は注がれている。
和菓子や洋菓子、あらゆるお菓子の知識や技術を学べる国立大学に入学し、パティシエとして働くことは全国民の夢と言っても過言ではない。
実際に、ダイヤクラスと呼ばれ

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空想お散歩紀行 明日の私はどこにいる

空想お散歩紀行 明日の私はどこにいる

目が覚める。いつもと同じだが、同じではない。
体を起こす。ベッドの質感、大分良し。部屋の内装、やたらと透明感のあるオブジェがある。
この感じだと・・・
横を向くと、一人の女が部屋の入口のドアの前に立っていた。
いわゆるメイド服のその女は私に向かって深々と頭を下げる。
「おはようございます」
「あなたは、何代目?」
挨拶に対して返す言葉はいきなり質問。これはいつものことだ。
メイドの方も特に気にする

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空想お散歩紀行 ヒトとケモノのライン

空想お散歩紀行 ヒトとケモノのライン

人類は常に空に輝く星に夢を馳せていた。
あそこには何があるのだろうと、どれだけ手を伸ばしても届かない場所へ、想いは止まることはなかった。
そして長い年月を掛けて、この度ついに火星にその足をつけることになった。
初めて月に降り立ってから、どれほどの月日が流れただろうか、人類にとって大きな二歩目である。
地球という星の中で人々は生きてきた。母なる地球という言葉が使われて久しいが、人類は着実に親離れをし

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空想お散歩紀行 生存刑

空想お散歩紀行 生存刑

つらい。毎日がつらい。
彼は常にそう思っていた。
そして考えていた。一日でも早く、一秒でも早く死ぬことができないか。
方法は何でもいい。病気でも事故でも、事件でも。
とにかくこの世から去りたい。この苦しみから、このつらさから解放されたかった。
生きることは彼にとって地獄そのものだった。
しかし、彼には自分で自分の命を終わらせる権利は無かった。
なぜなら彼は罪人だからだ。
罪を犯した者には罰が与えら

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空想お散歩紀行 三人羽織ミッション、世界を騙せ

空想お散歩紀行 三人羽織ミッション、世界を騙せ

世界は混乱の極みに陥っていた。
いや、それでもまだ最悪では無いのかもしれない。
ひびだらけかもしれないが、まだ崩壊はしていないのだから。
その崩壊を食い止めている理由には、一人の男の功労があった。
エスカテル国大統領、リモンド・グ・テエロの存在である。
彼がバラバラになりそうな世界を、その手腕で何とか繫ぎとめていた。
そしてその間に、周りの優秀な者たちが交渉で事態を進め、この度平和への道筋が開けよ

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空想お散歩紀行 続バベル

空想お散歩紀行 続バベル

再び、人は神へと挑みました。
遥か古代、人は神の高みへ至ろうと、高い、それは高い塔を建てたのです。
しかしそれは神の怒りを買い、塔は崩されました。
そして、人々はそれまで一つの言葉で意思疎通をしていましたが、互いに違う言葉を使うように変えられてしまったために、世界各地へと散らばっていきました。
しかし、それでも人々が滅ぶようなことはありませんでした。言葉の壁を乗り越え、再び社会は発展していったので

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空想お散歩紀行 救いたい魂が宿るのは

空想お散歩紀行 救いたい魂が宿るのは

江戸の町。将軍様の膝の下、小心者からやくざ者まで、ありとあらゆる人々が行き交うこの場所では今、一つの噂話で持ちきりだった。
それは、夜な夜な現れるという辻斬りの話。
ただ、辻斬りというだけなら物騒な話ではあるが、珍しいわけではない。
問題は斬られた相手の方だ。格好からして明らかに武士、もしくは浪人。少なくとも刀を持っている身分の者。
辻斬りと言えば、大抵は被害者は町民など、刀なんて一度も握ったこと

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空想お散歩紀行 世界平和のためのビバリウム

空想お散歩紀行 世界平和のためのビバリウム

爽やかな朝。いつもの朝食を済ませ、いつもの時間に家を出て、職場へと向かう。
世の中はまさに平和という言葉がぴったりだ。むしろ、それが当たり前過ぎて、平和という言葉が消えて無くなりそうなくらいに。
「おはよう」
職場に到着すると、いつもの作業服へと着替える。
仕事と言っても、やることの八割は観察だ。
「どうだい?何か変化はあった?」
「いや、それほど大きなものはないよ。ちょっと混乱してる箇所はあるけ

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空想お散歩紀行 力を借りたいですか?

空想お散歩紀行 力を借りたいですか?

今世界には4人の魔王と呼ばれる存在がいる。
魔王と言っても化け物というわけではない。
確かに魔術によって、自らの体を改造している者もいる。だが、普通の人間もいる。
個性も性格もバラバラだが、一つだけ共通していることがある。それは他の存在とは隔絶した魔力を持っているということだ。
魔力というものは、ある意味資金みたいなもので、多ければ多いほどやれることは増えるし、やることの規模も大きくできる。
強大

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空想お散歩紀行 時間停止魔法を使えるようになった男

空想お散歩紀行 時間停止魔法を使えるようになった男

二人の男がテーブルを挟んで会話をしている。お互いの手元にあるのはガラスのコップ。しかし中に入っているのは酒ではない。
「ついに俺は魔法を習得することができた」
「何だって、それは本当か」
彼らの住む国には、古くから魔法の伝承がいくつもある。歴史上には魔法が使えた者が大勢いたらしいが、いつしかその力は廃れ、途絶え、今では魔法を使える者は誰もいないと聞く。
「どんな魔法なんだ?」
友人は当然興味を持っ

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空想お散歩紀行 渋谷区はハロウィーンイベントの会場ではありません

空想お散歩紀行 渋谷区はハロウィーンイベントの会場ではありません

10月の終わりと言えば、ハロウィーンだ。
その日は一日一日と近づいている。
それに比例するようにテンションが下がっていく一人の女がいた。
笹川玲奈26歳。彼女が務めるのは渋谷区役所。
その中の少しばかり特殊な仕事場。そこは一般の都民はまず知ることは無い。
ひっそりと区役所の地下に設けられたその部屋の入口に掛かっているプレートに書かれている文字は、『異界通行安全課』
異界。文字通り、この世界とは異な

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空想お散歩紀行 エルフの時間感覚

空想お散歩紀行 エルフの時間感覚

長生きというのはそんなに良いものなのだろうか。
エルフはやたらと他種族、特に人間のような短命な種族からうらやましがられる。
でもそれは100年程度しか生きられない種族から見たらそうなのであって、私たちエルフからすれば、極々普通の寿命なのだ。
人間で例えれば、10年程度しか生きられない動物から人間は長生きでいいなと言われても、人間を長命な種族だと思うだろうか、そしてそれを素晴らしいと思うだろうか。

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