見出し画像

空想お散歩紀行 明日の私はどこにいる

目が覚める。いつもと同じだが、同じではない。
体を起こす。ベッドの質感、大分良し。部屋の内装、やたらと透明感のあるオブジェがある。
この感じだと・・・
横を向くと、一人の女が部屋の入口のドアの前に立っていた。
いわゆるメイド服のその女は私に向かって深々と頭を下げる。
「おはようございます」
「あなたは、何代目?」
挨拶に対して返す言葉はいきなり質問。これはいつものことだ。
メイドの方も特に気にする様子もない。
「はい。私は247代目ウォルターでございます」
「ということは、今は?」
「はい。西暦2735年10月28日でございます。ちなみに月曜日です」
やはり、今回はだいぶ未来に来たみたいだ。
私は一種のタイムトラベル的な能力を持っている。
それは、6時間以上の睡眠を取った時に時間を移動するというもの。
欠点は二つある。
一つは、移動先の時代を選べないこと。かなりの過去や未来に行くこともあれば、数日から数週間程度の移動の時もある。
分かっているのは、私が産まれた以前の時代には移動しないこと。だから恐竜がいた時代みたいなところには行かない。少なくとも神聖ローマ帝国が、って今はこんなことどうでもいいな。
二つ目は、時間移動はしても場所移動はしないということ。毎朝同じ場所で目が覚める。
だから、私が目覚める場所には私専用の屋敷の私専用の部屋の私専用のベッドが用意されている。おまけに付き人も。
こんな待遇をされているのは、私の能力所以だ。
いろいろな時代を見てくることができる私は言わば預言者のようなものだ。まあ、預言というより実際見てきたのだから、そりゃ当たる。
だが、そう都合よくいくわけではない。厄介ごとも二つある。
「巫女様、さっそくで申し訳ございませんが、お言葉を承ってもよろしいでしょうか?」
やっぱりどの時代でも巫女って呼ばれるのね。
「えっと、2735年って言ったよね。ここまで未来は久しぶりだから・・・あ、2911年のユーロ合衆国の大地震は?」
「既に記録がございますね」
「じゃ、じゃあ、2784年のフジヤマ大噴火は?」
「それも記録がございます」
厄介ごとその一。既に私が未来のことを伝えている。
今日の私がいる、2735年10月28日より過去の時代に目覚めた私が伝えたことは、当然今の時代には伝わっているのだ。
「他には何かございますか?」
「えーと、う~~~ん」
厄介ごとその二。私の頭の出来が悪い。
この時間移動にはメモなどの物質を持って移動することはできない。頼れるのは自分の記憶のみである。
預言のためになるべく多くのことを覚えようとはしているのだが、いかんせん量が膨大すぎる。預言の精度を上げるには日付まで正確に覚える必要あるし。
しかもめんどうなことに、私が伝えたことでその後の歴史が微妙に変わることも珍しくない。そうなったらまた覚え直しだ。
ただでさえ容量の少ない脳みそには、負荷が大きすぎる。
「ごめん。また思い出したらでいい?」
「分かりました。では先に朝食にいたしましょう」
私の一日は、思い出すことと、改めて目覚めた時代までの歴史を記憶すること、この二つにほとんどの時間を費やすことになる。
(あ!2738年にオポロンチョが大ブームになるんだけど・・・これは伝えるべきかな・・・)
重大な歴史の出来事よりも、しょうもない流行りものの方が覚えられるのが、本当にしょうもないと自分でつくづく思う。
「ところでさ、朝ごはんは何?」
「今年話題のチェチェストとグラムプです」
「何なのよ、それ・・・」
今日はこの時代で私は過ごす。そして明日は過去か未来か。

その他の物語
https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?