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空想お散歩紀行 世界平和のためのビバリウム

爽やかな朝。いつもの朝食を済ませ、いつもの時間に家を出て、職場へと向かう。
世の中はまさに平和という言葉がぴったりだ。むしろ、それが当たり前過ぎて、平和という言葉が消えて無くなりそうなくらいに。
「おはよう」
職場に到着すると、いつもの作業服へと着替える。
仕事と言っても、やることの八割は観察だ。
「どうだい?何か変化はあった?」
「いや、それほど大きなものはないよ。ちょっと混乱してる箇所はあるけど、この程度なら今までも何度もあったレベルだ」
僕の仕事は、特殊環境生物の研究。
ビバリウムと呼ばれる、人為的に自然環境を再現した空間で生物の動向を観察し、そこに何か法則性は無いか、コントロールすることはできないかを調べている。
「でも、今起きてることは、もしかしたらこれから大規模に発展するかもしれない。そうなったら新しいデータを得られるかもしれないぞ」
「我々の世界のために、ってか」
この仕事はある意味、世界で一番重要な仕事と言えるかもしれない。
なぜならこのビバリウムから得られたデータを応用することで、今の世界が成り立っている部分がかなりあるからだ。
正直この研究が無かったら、今頃世界はもっと混沌としていたかもしれない。
だが、今の世界はまさに平和そのものだ。人々は争うことなどなく、自分の人生を謳歌している。自分の好きなことを求め、他人を尊重し、互いに助け助けられ生きている。
「それにしても、もう一個の『地球』の方は、いつもにぎやかだね、ほんとに。こっちの世界の方が俺たちのより、よっぽと刺激的でおもしろいんじゃないかと時々思うよ」
「短期間住むだけならそうかもね。でも僕はやっぱり今の地球の方がずっといいよ」
僕たちの住む地球と、ほぼ同じ環境を再現した「プラネット・ビバリウム」
そしてそこに住む僕たちとほぼ同じ体を持っている人間たち。
彼らは自分たちが住んでいる星が、ビバリウムだとは知らない。唯一無二の地球という惑星だと思っているだろう。
でも実際は、ビバリウム内で行われているいろいろな人間たちの活動は、僕たちの社会をよりよくするための実験と観察の対象でしかない。
「ところでさ、今の偽地球の人類はあとどれくらいもちそう?」
「これまでのデータから行くと、現地時間で十数年ってとこかな。また戦争と環境の急激な変化でってとこかな。人類滅ぶと、また一から育てないといけないからめんどいんだよね」
「まあ、それも仕事だ」
「そうだね」
社会を良くするための仕事だと思えば、やりがいがあるからがんばれる。
この平和な世界を少しでも長く続けていくために。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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