空想お散歩紀行 力を借りたいですか?
今世界には4人の魔王と呼ばれる存在がいる。
魔王と言っても化け物というわけではない。
確かに魔術によって、自らの体を改造している者もいる。だが、普通の人間もいる。
個性も性格もバラバラだが、一つだけ共通していることがある。それは他の存在とは隔絶した魔力を持っているということだ。
魔力というものは、ある意味資金みたいなもので、多ければ多いほどやれることは増えるし、やることの規模も大きくできる。
強大な魔力というのは、世界を好き勝手にできる権利と同意だ。
そしてそんな4人の魔王の中で、一際特殊な魔王が一人いた。
その名も、魔王ロン・リンシ。
彼は絶大な魔力を持っているが、それを戦闘に使うことはできない。自然を操り、天変地異を起こすこともできなければ、竜や魔獣など、凶悪な怪物たちを使役することもできない。
彼が出来ることはただ一つだけ、自らの魔力を他人に貸し付けることである。
魔力というのは、鍛錬を積むことで成長させることができる。
しかし、元々魔力を持っていなければそれはできない。そして、魔力を持っているかどうかは完全に生まれつきで決まる。
魔力を持っている者同士で子を作った場合でも、その子供が魔力を持つかどうかは完全に運でしかない。
血筋も何も関係ない、完全なランダム才能、それが魔力なのだ。
そんな魔力をロン・リンシは他人に貸す。
重要なのは貸すということだ。つまり返してもらうことが前提なのだ。
ロン・リンシも最初から魔王と呼ばれるほどの力を持っていたわけではない。
例えば、魔力ゼロの誰かに10の魔力を貸したとする。魔力を借りた者は鍛錬を積み、魔力を20まで増やした。そうしたら、借りた者は11の魔力をロン・リンシに返す。
こうすることで、ロン・リンシは自らの魔力を増やすことができるのだ。
ちなみに、この魔力の貸し借りは強い制約が掛かっており、もし魔力を返済できない場合は借主の寿命を魔力に変換して返すことになる。
こうしてロン・リンシは魔王の一角に数えられるまで、絶大な魔力を持つに至ったのだ。
しかし、彼ができるのは魔力を他人に貸し出すことだけ。その魔力を戦闘に使うことはできない。それなのに他の魔王と渡り合っているのは、彼には星の数ほどの支援者がいるからだ。
過去に彼から魔力を借り、それを鍛え上げることで名を上げることができた魔導師や、自らの研究を進めることができた学者。
これから魔力を借りて、自分の人生を望む方へと進めていこうと考えている者たち。
彼を慕っている者、利用しようと考えている者、思惑はそれぞれだが、彼がいなくなっては困るということで利害は一致している。
そんな者たちが彼の下に集まり、他の魔王の軍勢と戦っているのだ。
自らは決して戦うことのない、歴史上最も珍しい魔王。彼の魔力量は今日も増えていく。
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