空想お散歩紀行 封印商店街
その場所はまさに寂れたという表現がふさわしかった。
雨を防ぐアーケードはあるものの、所々に穴が空いている。
地面に敷かれたタイルの隙間からは、雑草がたくましく生えており、その力強さが逆にこの場所の静けさを強調していた。
アーケード下の通りの両脇には建物が軒を連ねている。しかし、そのどれも入口となる正面にはシャッターが下ろされていた。
どこからか風が吹いてきたせいだろうか、シャッターたちがカタカタと小さな音を立てて揺れている。
ここに初めて来た者は、いわゆるシャッター商店街だと思うだろう。かつてはここにも多くの人が行き交い、買い物客と店員との会話が溢れた活気のある場所だったのだろうと思いを馳せるのだろう。
だが、その想像は実は間違っている。
なぜならここは最初からシャッター商店街だからだ。
「ここでいいんだよな?」
一人の男が手に持った紙と目の前のシャッターとを目で何度も往復しながら確かめている。
間違いが無いことを確信すると、男は小さく一つ咳払いをしてから、大きく息を吸い込んだ。
「漆黒の空に揺蕩う光の欠片―――」
何やら人に聞かれたらまずい感じの言葉を呟き始めた男。だが、その表情は真剣そのものだ。
呪文のようなそれを言いながら、彼は右手でポケットから取り出した砂状の何かをシャッターに向けて振りかける。そして間髪を入れずに今度は左手の指を上下左右へと動かす。
その動きはメチャクチャに動かしているものではなく、何やら決まりがある動きだった。
そして、それらが終わると男は改めてシャッターを凝視する。
しばらくすると、先程まで風で微かに揺れていたシャッターが明らかに別の力で激しく揺れ始めた。そしてその動きはゆっくりとシャッターを上へと持ち上げていった。
薄暗い通りにシャッターの向こうから光が漏れてくる。
そしてこちらとあちらの空間が完全に繋がった。
「いらっしゃい」
開いた空間側から声が聞こえる。
「ようこそ。よく来たね。さあ、何をお望みかな?」
ここは閉店した店が並ぶシャッター商店街では無かった。
閉店どころか、むしろ現役絶賛営業中の店しか存在しない。
だが、この商店街の全ての店の商品はあまりにも常軌を逸していた。
この世界ではない、この時代ではない、常識も法則も、全てが理解の外にある、そんな品物ばかりを扱っている。
一粒で万病を癒す薬、半永久的にエネルギーを放出する石、重力等の物理法則を操る杖、因果律を書き換える筆。
魔法とも超科学とも呼べる品の数々を扱うこれらの店は、その超常性と危険性ゆえ、普段は封印されている。
この商店街で買い物ができるのは、その封印を解く方法を手にできた者だけなのだ。
それは、英雄レベルの選ばれた者とも言える。
「せっかくここまで来たんだ。ゆっくり見てっておくれ」
店主の声が客を招く。彼はゆっくりとその店内へと足を踏み入れていった。
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