空想お散歩紀行 生存刑
つらい。毎日がつらい。
彼は常にそう思っていた。
そして考えていた。一日でも早く、一秒でも早く死ぬことができないか。
方法は何でもいい。病気でも事故でも、事件でも。
とにかくこの世から去りたい。この苦しみから、このつらさから解放されたかった。
生きることは彼にとって地獄そのものだった。
しかし、彼には自分で自分の命を終わらせる権利は無かった。
なぜなら彼は罪人だからだ。
罪を犯した者には罰が与えられる。その罰の中でも一番重いのは死だ。
自らの命をもって、罪の代償とする。古来から現代まで続く、最も古いルールの一つかもしれない。
だが、それは生者の理論だ。
世の中にはいろいろな種族がいる。そしてその中には不死の魂を持った者たちも。
ノーライフキング・ノスフェラトゥの眷属たち。
彼はその中のゴースト族の一人だった。
彼は重い罪を犯した。だが死刑は彼にとって何の意味もない、というより実行ができない。
そこでそのような不死の種族に与えられる最も重い罪が、生存刑である。
不死の魂に、必死の肉体を与え、その肉体が滅ぶまでを刑期とするもの。
その刑期は大体50年程である。不死の種族にとっては短いように思えるが、これが彼らにとっては永遠とも思える長さに感じるようだ。
ゴーストの体と何もかもが違うそれは、苦痛そのものだ。
肉が重い。
空を飛ぶことができない、常に地面に縛り付けられている。
肉の体は動くとさらに重くなり、痛みも出てきて、最後には動くことすらままならなくなる、疲労という鎖。
何かを摂取しないと、これもまた動くことができなくなる、食事という鎖。
肉の体は常に手入れをしておかないと、汚れて不快な臭いを発し、さらには病を抱えることでさらなる苦痛の連鎖。
疲労も、食事を取る手間も、臭いやその他の感覚も、ゴーストでは決して背負うことのない、肉体特有の全てが彼にとってはとてつもない罰そのものだった。
早く死にたい。早く死んで、元の生活に戻りたい。
彼は今、自分が犯した罪を激しく後悔し、二度と生きるなんてことはしたくないと強く思うのであった。
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