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空想お散歩紀行 物語の道

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空想の世界の日常を自由に描いています。
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2023年9月の記事一覧

空想お散歩紀行 夜の巡り、出会い

空想お散歩紀行 夜の巡り、出会い

ネットは便利だ。自分が欲しい物は大抵すぐに見つかるし、そこからこんな物もおすすめですよと、別の商品も教えてくれる。
便利だが、それは甘い罠でもある。
おすすめしてくる物は、自分が欲しい物と似た物でしかない。
つまりそれは、自分の想像の範囲を出ることはないということだ。
だから私は今夜も街に出る。
この街には夜から開く店がいくつもある。居酒屋系の店だけではない。洋服店、スポーツショップ、楽器店など様

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空想お散歩紀行 お月見は下を向いて

空想お散歩紀行 お月見は下を向いて

「ママー、お月見ってなあに?」
幼稚園からの帰り道、しっかりと繫いだその小さな手の持ち主が、何の前振りもなく母親に質問をぶつけてきた。どうやら今日保育園で友だちが言っていたことを聞いたらしい。
「お月見っていうのはね、ちょうど今くらいの季節に月を見る、何て言うのかな、イベントっていうか、お祭りみたいな・・・もの?かしら」
「何で月を見るの?」
「うーんと、この季節の月が一番きれいに見えるから・・・

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空想お散歩紀行 旅猫

空想お散歩紀行 旅猫

人は常に今ここではない場所を夢見る。
その思いが人を旅に駆り立てる。
旅をしたい者が増えれば、それを手助けする者も当然出てくる。
だからこの世界には多くの鉄の道が敷かれた。
大陸を網の目のように走る鉄の道の上を今日も数えきれないほどの人々が移動する。
旅客鉄道は人々を乗せ、数日、長ければ数ヵ月という長い時間を掛けあちらこちらへと旅人を運ぶ。
この『フライングキャット号』もその旅客鉄道の一つだ。

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空想お散歩紀行 最強対最強

空想お散歩紀行 最強対最強

市民総合体育館。そこで行われているのは、高校生を対象にした、剣術国体予選決勝。
新しくできたばかりの競技だが、瞬く間に競技人口は増えていった。
一対一で競う個人戦。剣道や柔道のように先鋒、次鋒と順番に戦う基本団体戦。二対二、三対三と同時に戦う複数団体戦と競技の形も様々だ。
特徴は選手が持っているプラスチック製の細長い棒、これが剣になる。
そして、頭に装着された軽量VRゴーグル。これによりVR空間内

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空想お散歩紀行 幸福ウイルス

空想お散歩紀行 幸福ウイルス

その日、空から無数の光り輝く粒のようなものが世界中に降り注いだ。それは雪よりも小さく、落ち葉よりもゆっくりと降りてきた。

「やっぱり、継続は無理だったか」
「まあ、しかたないよ」
廊下を歩く二人の男が、残念そうに肩を落としていた。
「まあ、どう見ても無理が出てたからな。むしろこれ以上続けても無駄に損失がでかくなるだけだ」
「でもなあ、今回はまるっきり失敗ってわけでもなかっただろ?もう少し様子見て

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空想お散歩紀行 スパイアイドル

空想お散歩紀行 スパイアイドル

今は多くのアイドルグループがしのぎを削っているアイドル戦国時代。
その激戦の最中にあってトップを走り続けているのが、アイドルグループ『ルナティック』である。
紆余曲折を経て、現在12名から構成されるそのグループは歌や踊りなど、圧倒的なパフォーマンス力で老若男女を問わず魅了していた。
そのグループにこの度、13人目のメンバーが加入することになった。
彼女の名前は、青原ユイ。トップアイドルグループに入

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空想お散歩紀行 探偵と侍

空想お散歩紀行 探偵と侍

夜とは、多くの生物にとって安らぎと休息の時間である。今日一日の疲れを労わり、眠って次の日に備える。
しかし、昼行性でも夜行性でもない生物がいる。人間だ。
俺たちは昼に生きるべきか、夜に生きるべきか、そんな単純なことすら忘れてしまったのかもしれない、常に迷っている生物だ。
夜は静かであるべきだと考えるやつもいれば、夜だからこそ騒ぎたいやつもいる。
俺は、できることなら夜は静かに過ごしたい。そう、でき

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空想お散歩紀行 最高の仕事

空想お散歩紀行 最高の仕事

そのニンゲンたちに聞こえるのは、雨が体を叩く音だ。
体と言っても、自分の生身の肉体のことではない。
自分の肉を覆う、厚い金属製の機械の鎧のことだ。
それを着ていないと仕事にならない。止むことの無い、振り続ける雨は人の体にとって毒以外の何者でもないからだ。
だから今の時代、人々は地下で暮らしている。
しかし、地表近くは毒雨の影響が出てしまう。
すぐに死ぬようなものではないが、それでも健康にいいわけで

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空想お散歩紀行 呪いは用法用量を守ってね

空想お散歩紀行 呪いは用法用量を守ってね

質素な板張りの部屋の中は静まってはいたが、何かが蠢いているような異様な空気が支配していた。
部屋の中央に敷かれた布団に寝ているのは一人の少年。
顔は赤く、息が荒い。誰が見ても苦しんでいるのが分かる。それも当然で少年は今まさに病のために生死の境をさまよっていた。
その少年を見下ろすように、男が横に座っている。白い上下の服に身を包み、頭と口元を白い布で覆っている。
「先生」
男の後ろに座っているのは少

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空想お散歩紀行 ダダ洩れの水の責任

空想お散歩紀行 ダダ洩れの水の責任

仕事上起こったミスは誰の責任なのか。
今日のニュースで取り上げられた話題はこれだった。
ニュースでは、水の管理でミスがあったことで、無駄に流された水の費用を誰が払うのかと議論になっていた。
管理ミスをした職員なのか、雇っている団体なのか。
世論は職員が負担するのはおかしいという論調が多いようだ。
誰であろうとミスをするときはある。それをカバーするのが雇っている者の責務ではないかということだ。そして

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空想お散歩紀行 ダンジョンマスター

空想お散歩紀行 ダンジョンマスター

私はダンジョンマスター。
あらゆるダンジョンを攻略、踏破してきた凄腕の冒険者・・・という意味ではない。
私はダンジョンに入る側ではなく、ダンジョンを作る側の者だ。
私の作ったダンジョンは今まで数多の挑戦者の命を喰ってきた。
ここで勘違いしてほしくないのは、私は快楽殺人者ではない。
私の作るダンジョンは確かに簡単に攻略できるものではないが、絶対に攻略できないものでもない。
その試練を乗り越えた時、富

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空想お散歩紀行 世代間ギャップ

空想お散歩紀行 世代間ギャップ

まったく、最近の若いもんは。
まさか自分がこの言葉を思う日が来るとは思わなかった。
確かにこの世界は広い。いろんなやつがいる。
俺もこの世界に入ったばかりの頃は、古いやり方にこだわり続ける上の世代の連中に苛立ちもした。決してあんな風にはならないぞと何度も思ったものだ。
新しいやり方を詳しく知ることもなしに、否定から入るくせに、自分たちのやり方には少しも疑問を抱こうとしない。
こだわりと言えば聞こえ

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空想お散歩紀行 呪いの力は巡り巡って伝説へ

空想お散歩紀行 呪いの力は巡り巡って伝説へ

私の家系は古くは平安時代から続く呪術士の家系だ。
だが、現在では残っているのはその血のみで、術の方はほとんど枯れてしまった。
出来ることと言えば、天気や人の運勢を占うくらいのもので、それでさえもはっきり当てることができるわけではない。
力がものを言う侍と刀のこの時代に、そんなものが役に立つことは少ない。
でも、この血を絶やすことなく受け継いできたことに意味はあるはずだ。
必ず一族の栄光を取り戻して

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空想お散歩紀行 とある犬の視点の物語

空想お散歩紀行 とある犬の視点の物語

彼は一人道を歩いていた。彼は焦っていた。
急がねばならぬ、故郷に残してきた仲間たちのために。
彼の4本の足は、地面を踏みしめる度に自らの良心を踏みつけているような気分のなった。
彼は見た目こそどこにでもいそうな犬に見えたが、背負っているものは並大抵のものではなかった。
彼の出身は、今彼がいる所より遠く離れたとある山。
そこには人間はおらず、犬たちだけが暮らしていた。
しかしその犬の国には階級制度が

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