空想お散歩紀行 最高の仕事
そのニンゲンたちに聞こえるのは、雨が体を叩く音だ。
体と言っても、自分の生身の肉体のことではない。
自分の肉を覆う、厚い金属製の機械の鎧のことだ。
それを着ていないと仕事にならない。止むことの無い、振り続ける雨は人の体にとって毒以外の何者でもないからだ。
だから今の時代、人々は地下で暮らしている。
しかし、地表近くは毒雨の影響が出てしまう。
すぐに死ぬようなものではないが、それでも健康にいいわけでは決してない。
なるべく地下深くに住むこと、それが命の保障でもあった。
だから人々は下を目指した。
「最低」こそ人々が理想とする生活の場所だ。
1000年ほど前の世界ではいかに高い所に住むかが成功者としてのステータスだったというが、今の時代の人にそんなことを言っても誰も理解できない。
地下世界では、いかに深く低くに住んでいるものこそが強者だ。
しかし、地下の世界といっても無限ではない。
堅い岩盤層に遮られ、思うように進まない地下の拡張が、人口の増加に対応しきれなくなっていた。
そこで地上にも街を作らざるをえなくなった。
しかし、地上は毒雨の影響でそのままでは暮らすことができない。だから整備する必要があった。
毒雨に耐性のある金属で造られた屋根を設置することでその下を居住スペースにしようとした。
しかしいくら屋根があるとはいえ、毒が降りしきる外であることに変わりはない。
ここにできる街が後々どのような場所になるのかは誰もが想像できた。
しかしやるしかなかった。
そして今、建設途中の屋根の上で黙々と仕事をしている作業員たち。
彼らは防護用の金属に身を包んでいるが、命の危険がすぐそこにある。
屋根建築作業。今この世界で最もやりたくないと思われている仕事ぶっちぎりトップだ。
「最低」を目指す世界で、間違いなく「最高」の仕事である。
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