空想お散歩紀行 旅猫
人は常に今ここではない場所を夢見る。
その思いが人を旅に駆り立てる。
旅をしたい者が増えれば、それを手助けする者も当然出てくる。
だからこの世界には多くの鉄の道が敷かれた。
大陸を網の目のように走る鉄の道の上を今日も数えきれないほどの人々が移動する。
旅客鉄道は人々を乗せ、数日、長ければ数ヵ月という長い時間を掛けあちらこちらへと旅人を運ぶ。
この『フライングキャット号』もその旅客鉄道の一つだ。
ただこの列車には他には無い特徴があった。
初めてこの列車に乗った客は皆一様に驚く。
車両内に猫がいることに。
いつ頃から乗っているのか、古株の車掌でもよく分かっていない。気が付いたらいたとのこと。
しかし追い出すようなことはしなかった。
とある地方のおとぎ話に、猫と一緒に旅をする男の話があって、猫のおかげで男は旅の途中いくつもの困難を乗り越えるというものだった。
そのおとぎ話の影響で、一部では猫は旅人にとって縁起がいいものとして扱われている。
この列車もそれにあやかっているというわけだ。
主に乗客から餌をもらって、その猫は列車の中で悠々と過ごしている。
不思議なのは、時によって列車内にいる猫の数が違うことだ。
この猫だけは常に変わらず、列車を住処にしているが、それ以外の猫はどこかの駅に停車した時に乗ってきて、また別の駅で降りていく。
まるで猫も人間と同じように旅をしているかのようだ。
駅によっては、フライングキャット号に乗ろうとホームで待っている猫の姿まで見ることができる。
駅から乗り込んでくる猫たちは、必ず列車の主たる猫に挨拶をしている。主猫も乗り込む猫を出迎え、そして降りる猫の別れを見送る。
こうして旅する猫たちを彼は支えているのだ。
今も食堂車で、列車付きのコックと乗客たちからもらった餌を、旅猫たちと分け合って食事をしている。
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