マガジンのカバー画像

空想お散歩紀行 物語の道

1,152
空想の世界の日常を自由に描いています。
運営しているクリエイター

2022年12月の記事一覧

空想お散歩紀行 良いお年を

空想お散歩紀行 良いお年を

長い旅の末、勇者はついに魔王の城へと辿り着いた。
幾多の出会いと別れ、幾多の試練を乗り越えて、ついに最後の目的地へと足を踏み入れたのである。
全ては魔王を倒すため、世界に光を取り戻すためだ。
彼は伝説の武具を身に着け、ただ一人最後の戦いへと赴く。
彼のその姿は、見ただけなら一人だけかもしれない。
だが、彼の心には今まで出会った全ての人たちの想いがあった。
それがたった一人でありながら、まるで彼の背

もっとみる
空想お散歩紀行 一年の終わりの場所

空想お散歩紀行 一年の終わりの場所

それはまるで人間による海のようだった。
正確には地球型ヒューマンタイプだけでなく、宇宙中の種族が集まっていた。
そこは、宇宙歴で一年の終わりだけ開放される惑星、アップ・アメサイド星。
グランエビやエルダーモッチなど、この時期ならではの食材や酒が販売される。
さらには、年末の各種イベントもこの惑星で行われるため、宇宙中から人が集まるのだ。
年末と年始のみの星。それ以外はほぼ無人のこの場所が賑わうこと

もっとみる
空想お散歩紀行 大掃除をしてスッキリと

空想お散歩紀行 大掃除をしてスッキリと

世界とは複雑に絡み合っていて、それを解きほぐして一本の糸に戻すことは不可能で、でもだからこそ興味深く、おもしろいと思っていた。
だが、それは単なる思い込みで、真実とは想像以上に単純だったりする。
この世界の歴史を研究して既に30年の月日が流れようとしている。
なぜ私が歴史に興味を持ったか。それは、この世界最大の謎に関係している。
過去に出土した人の化石から、およそ一万年前には人間がいたことは確認さ

もっとみる
空想お散歩紀行 年の瀬のいつもの風景

空想お散歩紀行 年の瀬のいつもの風景

「あー、もうそんな時期なのね」
魔法使いのメアは上を見上げる。
夕暮れ時の、オレンジと紫がグラデーションを描く空に何かが列をなすように飛んでいる。
一見するとそれは白い鳥のように見える。
実際それは鳥の形をしているが、実は鳥ではない。
紙に魔法を掛けて、鳥の生命を与えたものだ。
「あたしも書かないといけないなー」
そう言いつつも、メアの表情は少しめんどくさそうだ。
今年がもうすぐ終わろうとしている

もっとみる
空想お散歩紀行 次のあなたへ

空想お散歩紀行 次のあなたへ

「・・・ああ、こちらは任せてくれ。大丈夫だ。リミットまでには戻る」
彼はスマホの通話を切ると、ポケットにしまう。
近くにあった自販機で飲み物を2本買うと、車に戻った。
運転席に座ると、買ったペットボトルの一本を黙って助手席に向かって差し出した。
「話はしておいた。とりあえずは大丈夫だ。まあ、戻ることには変わらないがな」
「・・・・・」
助手席から返事はない。そこに座っている女性はただ静かにうつむい

もっとみる
空想お散歩紀行 クリスマスの次に送るもの

空想お散歩紀行 クリスマスの次に送るもの

かんぱ~~~い。
明るい声と、グラス同士がぶつかる小気味いい音が店内に響く。
居酒屋「三太交差」
今夜この店で、打ち上げと忘年会を兼ねた宴会が催されていた。
「いやあ、今年も大変だった」
「ああ、思った以上に雪がひどかったな」
「俺としては、贈り忘れをしなかっただけで十分だよ」
彼らはクリスマスイブの夜に子供たちにプレゼントを配りながら空を駆け巡っていたサンタたちだ。
聖夜の大仕事を終えた彼らは互

もっとみる
空想お散歩紀行 そのサンタの服は赤色ではない

空想お散歩紀行 そのサンタの服は赤色ではない

「アラート入りました!地域ナンバー68、465エリア、3355番区です!!」
「ナンバー77が一番該当地区に近いです!」
「よし!すぐに伝達、それからアンデリバゼントを転送しろ!」
「了解!」

「お、来た来た」
町外れの街灯の下。吐く息とタバコが同時に白い色を凍り付くような空気の中へと押し出す。
雪が積もる周りの地面と同じように、白い色を基調とした服と帽子を身につけている男は、自分の近くに突然現

もっとみる
空想お散歩紀行 大人向けサンタ

空想お散歩紀行 大人向けサンタ

聖なる夜、クリスマスイブ。世界中の子供たちが一年のうちで一番楽しみにしている夜かもしれない。
サンタクロースは子供たちにプレゼントを配るために夜の空を飛んで行く。
サンタは子供たちのための存在であり、大人には関係無いと思うのが当たり前の考えだ。
だが、世界中の大人たちのため、というわけではないが、大人のために今宵の空を翔けるサンタもわずかだが存在する。
そして、そんな特殊なサンタが用意するのは普通

もっとみる
空想お散歩紀行 地獄2.0

空想お散歩紀行 地獄2.0

地獄の沙汰も金次第とはよく言ったものだ。
今の時代、地獄はその言葉通りになっている。
とは言っても、その意味は昔とは少し違っているかもしれないが。
「皆様、右手をごらんくださーい」
虎皮の服装に身を包んだ若い鬼の女性が、にこやかにマイク片手に乗客たちに声を掛ける。
三途の川クルーズ。三途の川をガイドの解説付きで上流から下流まで下りながら風景を楽しむという今人気のアトラクションだ。
地獄とはこういう

もっとみる
空想お散歩紀行 あちらの世界のエンタメは

空想お散歩紀行 あちらの世界のエンタメは

俺は今や世界的に有名人になっている。
と言っても何かを成し遂げたわけではない。
ただ、目が覚めた、だけだ。
俺は3年前、交通事故により意識不明になった。そしてそのまま眠り続け、ついこの間意識が回復したのだ。
連日テレビやネットのニュースで取り上げられ、国内のメディアはもちろん、外国の聞いたことも無いテレビ局だか何だかの取材も受けた。
聞かれたのはこれからどうしたいか?何をやりたいか?なんてことばか

もっとみる
空想お散歩紀行 昨日までのことは信じられる?

空想お散歩紀行 昨日までのことは信じられる?

今日で14日目。いやそれすらも本当かどうか分からない。
今日は俺の番だった。
今いるのはどこにあるのか分からない謎の施設。
窓は無いから外の様子は分からないが、テレビはあるので情報は見ることができる。と言っても分かるのは番組からここが国内であるということくらい。今の自分が置かれた状況はそこからは得られない。
そして重要なのは今ここには俺の他に6人の人間がいること。性別も年齢もバラバラで特に共通点が

もっとみる
空想お散歩紀行 魔力を増やす方法

空想お散歩紀行 魔力を増やす方法

魔法の力。それはこの世界では生きていく上でなくてはならないものだ。
物を動かす、火や水を操る、空を飛ぶ。ありとあらゆる魔法が古今東西で、おそらく一秒と間を開けることなく発動しているのが現代社会だ。
だが魔法とて万能ではない。できることに限界はあるし、使うためには代償を払う必要がある。
それの一つが魔力だ。個人のもしくは集団の魔力を消費することで魔法は発現する。
当然魔力量が多いほど使える魔法の規模

もっとみる
空想お散歩紀行 古代遺跡の街

空想お散歩紀行 古代遺跡の街

旅を長く続けていると、いろいろな街を訪れる。似たような街はたくさんあるが、どれとして同じ場所はない。自然や文化、食べ物やそこに住む人々の気質。何かしら特有のものがある。
「いやあ、話通りの所に街があって良かったねえ」
長い金髪を無造作に揺らしながら一人の少女がベッドへと倒れ込む。その身体からは湯気が薄っすらと立ち上っており、今しがた風呂に入ってきてさっぱりしたからか、すこぶる上機嫌だった。
「そう

もっとみる
空想お散歩紀行 侵略は内側から。バーチャル群雄割拠

空想お散歩紀行 侵略は内側から。バーチャル群雄割拠

エンターテイメントは変わった。
いまだにテレビの画面の中でイケメンな俳優や、可愛い女の子のアイドルが活躍してはいるが、人々がそういう類の人間の見た目に対する感覚は近年変わりつつあった。
今人気が急上昇しているのが、バーチャルタレントだ。
アニメ調の体を持ち、会話をしたり、リアクションを取ったりするのは「中の人」と呼ばれる者が担当する。
特に日本ではこの形態が一躍に流行した。
元々漫画やアニメに親し

もっとみる