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空想お散歩紀行 古代遺跡の街

旅を長く続けていると、いろいろな街を訪れる。似たような街はたくさんあるが、どれとして同じ場所はない。自然や文化、食べ物やそこに住む人々の気質。何かしら特有のものがある。
「いやあ、話通りの所に街があって良かったねえ」
長い金髪を無造作に揺らしながら一人の少女がベッドへと倒れ込む。その身体からは湯気が薄っすらと立ち上っており、今しがた風呂に入ってきてさっぱりしたからか、すこぶる上機嫌だった。
「そうね。でもこんな砂漠の真ん中にこれほどの街があるなんてね。もっと質素な感じかと思ってたけど」
もう一人黒髪のショートヘアの少女が同じく首にタオルを掛けて、良く冷えたジュースを飲みながらくつろいでいた。
彼女たち二人は旅人だ。世界各地を渡り歩きながらとある物を探していた。
「ここでいい情報が手に入るといいねえ」
金髪の方の娘は楽観的にこれからのことを口にした。今は砂漠の砂を落としたことと、ふかふかのベッドの気持ちよさのことの方が旅の目的よりも勝っているらしい。
「そうね。今までに無いタイプの街だから期待はできるかもね」
実際、今彼女たちがいる街は異質だった。
砂漠の真ん中にあることもそうだが、その街の外観は街と呼べるようなものではなかった。
まず巨大な壁がぐるりと街の周りを囲んでいる。その壁も木でも石でもない不思議で頑強な物質で造られていた。
その壁の内側に入るとそこに街が広がっていた。街に入って二人は気付いたが、壁だけでなく天井もその街を覆っていた。と言っても、穴がそこかしこに空いていて、天井としての役割はあまり果たしてはいなさそうであった。
「今日街の人に聞いたんだけどさ。この街って今住んでいる人たちが作った物じゃないんだって。ずっと昔からあった遺跡を街に作り直したらしいよ」
「へえ~、どうりで見たこと無いものが多いと思ったよ・・・」
金髪の少女はもう半分目が閉じかけていた。
「だから普通の街っぽい作りじゃないのよね。あの壁も古代の超技術の一端らしいし」
改めて不思議な街だと彼女は思った。この街は中央に大通りがあり、その大通りを挟む形で建っている街の壁に沿っていくつもの店、道具屋や武器屋、教会などの施設が設けられている。
さらに店舗や施設は地上だけでなく、壁に沿った形で上方向にも伸びていて、この街は多層構造になっていた。左右の壁の間に張られた通路はどれも比較的新しい木製で、これは古代の物ではなく現代に作られたものだとすぐに分かった。
彼女たちが泊っている部屋も、街の第3層にある宿屋の一室だった。
「そう言えばこの街って家がないよねえ」
「家が無いというよりも、この街全体が一つの家で、その中にある部屋をそれぞれお店や住居に使ってるって感じね」
彼女はここに辿り着いてから、宿に入るまでに少し様子を探るために歩き回ってみた。
多数ある部屋の中には何に使うか分からないものもいくつかあった。
座席がたくさん並んでいるので劇場だと思われるがステージのようなものはなく、座席が向く正面には、汚れた巨大な紙のようなものが張られているだけの部屋もあった。彼女が紙のようだと感じたのは、それが汚れる前は白い色だったのだろうと感じたからだ。
このようにおそらく古代の時代には使われていたが、今ではもうその用途さえ分からなくなった物がこの街には大量にあるのだろうと彼女は思った。
「聞いた話だとね。この砂漠は元々海だったらしいわ」
「うみ~~?なにそれ~~・・・」
金髪の少女はもう半分夢の世界へ足を踏み込んでいたが、何とか反応を返した。
「私も本で読んだことしかないけど、湖も比べものにならないほどの大量の水が溜まった場所らしいわ。それでこの街はその海を移動するために作られた船だったとか・・・」
「こんなでっかい船があるわけないじゃーん」
半分眠りながらの答えだったが、黒髪の少女はそれに反論はできなかった。
船と言えば川や湖を渡る物。大きくても精々が数十人程度を乗せる物だ。だがこの街が船だとするならば、数千人は余裕で乗せられるだろう。
現実では考えられない。だがいまだ解明されていないことがほとんどの古代の技術なら可能なのかもしれない。
旅をしているとこのような、常識を軽々と壊してくるものによく出くわす。その度に自分の小ささと世界の大きさを実感する。
すっかり眠りに落ちた相方を見ながら、黒髪の少女も自分のベッドへと入った。
明日からは本格的に情報収集だと、この街の圧倒的な未知に飲み込まれないよう自分に言い聞かせながら。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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