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空想お散歩紀行 そのサンタの服は赤色ではない

「アラート入りました!地域ナンバー68、465エリア、3355番区です!!」
「ナンバー77が一番該当地区に近いです!」
「よし!すぐに伝達、それからアンデリバゼントを転送しろ!」
「了解!」

「お、来た来た」
町外れの街灯の下。吐く息とタバコが同時に白い色を凍り付くような空気の中へと押し出す。
雪が積もる周りの地面と同じように、白い色を基調とした服と帽子を身につけている男は、自分の近くに突然現れた物を拾い上げた。
「今年は去年より数が少ないと思ったのに、こんなギリギリで寄こしやがって・・・」
男はぶつぶつと文句を言いながらも、手にした物は丁重に抱えていた。
それは青と緑の縞模様が描かれた箱に赤い大きなリボンがラッピングとして結わえられていた。箱を抱える彼の手袋には77の数字が書かれている。
現在12月25日、午前4時35分。
前日24日の夜からの今宵の一晩は聖なる夜である。世界中の子供たちにサンタクロースたちがプレゼントを配って飛んでいる。
しかし、サンタクロースは神様ではない。
つまり完璧ではないのだ。
プレゼントを配るべき子供のいる家に、うっかり置いてくるのを忘れることも時々起こる。
そのような事態は本来許されるものではない。
クリスマスの朝、子供たちの枕元にプレゼントが置かれていない、アンデリバゼント〈贈られていない贈り物〉はサンタ界にとってこれ以上ないほどの失態である。
だが、やはりサンタクロースも完璧な存在ではない。だからこそこんな時のために彼らのような存在がいる。
彼らはステルスサンタと呼ばれている。
贈り忘れられたプレゼントを本来の家へちゃんと置いてくることが彼らの仕事だ。
ただ置いてくるだけが仕事ではない。このような贈り忘れが発覚するのは夜明けが近くなってからだ。
時間的に当然町も動き出す。通りにはちらほら車が走り出している。
だからこそ彼らはただプレゼントを置いてくるだけではなく、決して誰にも見つからないということが条件に加わる。
ゆえにステルスサンタ。本来は存在しない、表向きには決して出てくることは無い無色透明のサンタクロースなのだ。
「それじゃ、さっさと終わらせますか」
東の空、地平に近い所がほんのわずかだが白んできている。夜が終わりを迎えようとしている。聖夜の刻限が迫る中、彼は雪を踏む音すら立てずに目的の家へと歩み寄っていった。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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