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空想お散歩紀行 物語の道

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空想の世界の日常を自由に描いています。
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2022年11月の記事一覧

空想お散歩紀行 狭間の時間

空想お散歩紀行 狭間の時間

それは夜と朝の間のように見えて、実際は既に朝なのだが。
その中はまだ、まごうことなき夜の一部なのだ。
外の世界と自分を隔てる一枚の壁の隙間から、外の光が漏れ入ってくる。
それを気にせず、ゆったりとたゆたう流れの中に自分の体を預ける。
そこにあるのはただただ自由な感覚だ。なにものにも縛られない、何かを得たわけでもなければ、何かを失ったわけでもない、本当の意味での自由だ。
その時間が何よりも人を幸せに

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空想お散歩紀行 幕間の雨

空想お散歩紀行 幕間の雨

雨が降る。それは舞台の幕を下ろすかのように。
舞台の上で演じられていた一つの章が終わりを迎えることを知らせる幕。
赤や黄色で彩られた衣装を着た演者たちは去り、舞台の背景も変えられる。
次は白が基本色の演目である。それは静けさと終焉、次なる誕生の準備の章。
雨が止んだら、冬の章の開演だ。

その他の物語
https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

空想お散歩紀行 焚火屋

空想お散歩紀行 焚火屋

都会のただなかにその場所はあった。
それなりに広い土地には建造物は何も無く、背の高い木々が茂っており、ちょっとした森のような雰囲気を放っていた。
どこかのお金持ちが地主らしいが、かれこれ100年前からずっとこの小さな森はあったそうだ。
この場所に足を踏み入れると、都会の真ん中だというのに不思議とその喧騒は消え失せ、人里離れた山の中に瞬間移動したかのような錯覚を人は覚える。
1分ほど足を進めると、も

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空想お散歩紀行 11月の最重要任務

空想お散歩紀行 11月の最重要任務

秘密というものは、共有者が少なければ少ないほどいい。
情報とは、時に大金であり、時に兵器であり、時に命そのものである。
男はその日、普通に道を歩いていた。
決して黒のスーツに身を固め、サングラスをかけた『いかにも』な姿などせずに。
どこにでもいるビジネスマンのようなスーツを着て、普通のネクタイに普通の靴や時計を身につけている。
だが、その手に持っているアタッシュケースだけは違った。
良く見ないと分

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空想お散歩紀行 見えない世界

空想お散歩紀行 見えない世界

ある日から人類が皆透明人間になった。
自然現象か、未知のウイルスか、原因を特定できず世界中が一時パニックになった。
しかししばらくすると落ち着きを取り戻していった。
健康を損ねたり、これによって死ぬようなことはなく、ただ自分や他人の姿が見えなくなっただけだからだ。
外出時は服を着ていれば、どこに人がいるのかは分かる。握手が上手くできないとか、体を使ったコミュニケーションで不便は発生したが、特段日常

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空想お散歩紀行 20年越しの再会

空想お散歩紀行 20年越しの再会

その夜の風はいつになく生温い感じがした。
空を見上げれば星も月も見えず、街灯の灯りだけが道を照らしている。
いつもならまだ人通りもある時間帯だが、この空気のせいか、人々は皆早々に家路についたか、どこか適当な飲み屋にでも入ってしまっているようだ。
一人の男が道を歩いている。黒のコートに手袋をした、まだこの時期にしては厚着の長身の男だった。
彼にとって今日は約束の日だった。
20年前、彼はこの街で親友

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空想お散歩紀行 クローン・リバースセクス

空想お散歩紀行 クローン・リバースセクス

「ちょっと!くっつかないでよ!」
「しょうがないだろ。狭いんだから」
「リンネ、もう少し静かになさい」
「はい!先輩!」
人一人がやっと通れるくらいに道に3人。しかも一人は男ときてる。
こんな夜中にせっかく先輩と二人きりなれたと思ったら、とんでもない迷惑客に乱入された。
事の始まりは、ほんの30分前。
私と先輩の前にこの男が現れた。
もう深夜に差し掛かる時間に、しかも女子高であるこの学園の敷地内に

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空想お散歩紀行 ブラックウィーク

空想お散歩紀行 ブラックウィーク

「そっちに行ったぞッ!逃がすなッ!!」
深夜の街に叫ぶ声が轟く。
大勢の人間が走る音が、まるで豪雨のように闇を切り裂く。
その音が遠くに去っていくのを聞きながら、男はひとまず胸をなでおろす。顔は雨に降られたかのように汗だくだった。
男は逃げていた。もちろんそれには理由がある。
彼は犯罪者だった。強盗、スリ、万引き等の盗みを専門としていた。仕事の際、人を傷つけたことはあったが殺しは今まで一度もしたこ

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空想お散歩紀行 アイドルに真に必要なこと

空想お散歩紀行 アイドルに真に必要なこと

顔全体に接着剤でも塗りたくられているかのように彼女は感じていた。だが、それが彼女にとっての普通。
満面の笑みを1ミリを崩すことなく、彼女は手を差し出す。その手を握るのは大量の男、男、男。
「ありがとうございま~す。これからもよろしくね~」
高い声色をその男たち一人一人に寸分違わず掛けていく。
握手会会場は、ステージとは違う熱気に包まれ、そこは歓喜に包まれた男たちが列をなす場。
7人の少女たちがそれ

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空想お散歩紀行 サッカー・ユニバースカップ

空想お散歩紀行 サッカー・ユニバースカップ

さて、地球の諸君ごきげんよう。
私の名前はグラウツ。フィードサカ星の者だ。
君たちに分かりやすく言うなら宇宙人というやつだ。私から見たら君たちの方が宇宙人だがね。
すまない。少し話が逸れた。単刀直入に言うが我々の目的はこの地球の征服である。
いきなりで面食らうと思うが事実だ。
だがあまり心配しないでほしい。我々が君たちを支配すると言っても、何も奴隷にしようといわけではない。そんなもの今の時代には流

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空想お散歩紀行 休日のアサシン

空想お散歩紀行 休日のアサシン

久しぶりの休日。天気はあいにくの曇りだったけど、外に出る予定は特に無いので関係無い。
昨日で大きな仕事が終わった。
とある財界人の大物を暗殺するという仕事が。
綿密に計画を立てて、でも全部計画通り行くことなんてまずなくて、何度も変更と再計算を余儀なくされ、タイミングを図り、待ち、そして実行する。
小さい時からずっとそうだった。何かを殺すのが日常の世界。
でも、子供の頃は好き勝手できても、大人になっ

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空想お散歩紀行 歩数制限サバイバル

空想お散歩紀行 歩数制限サバイバル

気が付いたら知らない場所にいた。
周りは森のようだが、霧も出ているせいでどれくらいの規模の森なのかいまいち分からない。
特に外傷は無かった。今、それほど動揺せずにいられるのは、これまでいくつもの戦場を渡り歩いてきたおかげか。非日常が日常だった人生の恩恵というところだろう。
とは言っても気持ちのいいものではない。
最後の記憶はバーで飲んでいた時。見知らぬ女から話しかけられ、行きずりのロマンスにでもな

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空想お散歩紀行 狭き門の先には金色のベル

空想お散歩紀行 狭き門の先には金色のベル

何度も頭の中でシミュレーションしてきたはずだが、現実というものの前ではそれが果たして意味のあるものだったのか、今さらながらに疑問が湧く。
青年は手にしたプレートを何度も見直す。
405番。つまり少なくとも今、この会場に405人の人間がいるわけだ。少し見回しただけでも、それ以上いることは容易に想像できた。2倍か、3倍か、それ以上か。
ここに集まっている人間は皆同じ目的のために集まっている。青年は自分

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空想お散歩紀行 聖職ロック

空想お散歩紀行 聖職ロック

地獄が世界にあふれ出した。
比喩的な意味ではなく、文字通りの意味で。
悪霊や怨霊がまるで湯水のようにこんこんと湧き出てくる。
それもご丁寧に洋の東西を問わず、宗教も問わずだ。翼を持った悪魔から、足の無い幽霊まで、人が地獄というイメージから連想するものなら全てが今どこでも見れるような状態だ。
そんな魑魅魍魎がひしめき合う世界で懸命に戦っている者たちもいた。
「―――ッッッ!!!!!」
その場にいた住

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