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空想お散歩紀行 歩数制限サバイバル

気が付いたら知らない場所にいた。
周りは森のようだが、霧も出ているせいでどれくらいの規模の森なのかいまいち分からない。
特に外傷は無かった。今、それほど動揺せずにいられるのは、これまでいくつもの戦場を渡り歩いてきたおかげか。非日常が日常だった人生の恩恵というところだろう。
とは言っても気持ちのいいものではない。
最後の記憶はバーで飲んでいた時。見知らぬ女から話しかけられ、行きずりのロマンスにでもなりそうな気がしていた。あの時何かやられたのか?だが、今それを考えてもしかたない。
状況は不明。持っているのは、いつも身につけている拳銃とナイフ、その他簡単なサバイバルキットだけだ。
そして俺のではない物が一つだけ。
それは腕に付けられたバンドで小さな液晶の画面が付いている。
ガッチリと金具で固定されているので腕から外すことは困難だ。
そして液晶画面にはただ数字だけが表示されている。
11936。
最初は12000だった。気付いたのだが、どうやら俺が一歩歩く度に数字が一つ減るようなのだ。万歩計の逆バージョンと言ったところか。
歩く度にカウントダウンのように減る数字。これが何を意味するのか、まだはっきりしないが正直気味が悪いのは確かだ。今の状況を考えると、これがゼロになることでいいことが起きるなんて想像はできない。
そして、俺のその予想を裏付けるような出来事が今目の前で起きている。
草むらの中で一人の男が倒れていた。いや、死んでいた。
その身体は、何か大型の動物に食い荒らされたかのようにグチャグチャで、人の身体というよりは、食べ残しと表現した方が適切かもしれない。
そしてその男も俺と同じように液晶付きのリストバンドをしていた。
その表示画面の数字は、ゼロ。わずかに残った死体の状態から、それなりに時間が経っているのが分かる。俺よりも相当前にここに来ていたということか。
カウントがゼロになったから、正体不明の何かに襲われた?
それとも、カウントがゼロになることで何らかの方法、例えばこのリストバンドに毒か何かが仕込まれていて、それがゼロと同時に身体に流し込まれる。それによって絶命、その後で死体を食われた?
どちらにせよ、そうでないないにしろ、この数字がゼロになることは避けた方がいいのは確からしい。
とすれば、無駄に動き回ることはできない。
だが、動かなければ今の状況を調べることもできない。
どこの誰だか知らないが、こんなことをする理由は何だろうか。俺を試しているのか?それともこの状況をどこかから優雅にワインでも飲みながら見て楽しんでいるのだろうか。
これも考えてもしかたない。今は分からないことしかない。だったら動くしかない。
俺は死体の周りの草を狩る。このどこを見ても草木ばかりの森の中では、こいつは目立つ目印だ。まずはここを中心に周りを探索する。
しばらく世話になるぜ、ジョン・ドゥ。
その時、背後の草むらから明らかに自然ではない音が響いた。俺の経験が即座に身体を動かし、その方向へ銃を向けた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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