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空想お散歩紀行 11月の最重要任務

秘密というものは、共有者が少なければ少ないほどいい。
情報とは、時に大金であり、時に兵器であり、時に命そのものである。
男はその日、普通に道を歩いていた。
決して黒のスーツに身を固め、サングラスをかけた『いかにも』な姿などせずに。
どこにでもいるビジネスマンのようなスーツを着て、普通のネクタイに普通の靴や時計を身につけている。
だが、その手に持っているアタッシュケースだけは違った。
良く見ないと分からないが、持ち手の部分からは鎖が伸び、スーツの袖の下の手錠と繋がっている。さらにはその手錠も2種類の鍵でロックされている。
アタッシュケースそのものも、見た目こそ普通だが、特殊合金で作られた銃弾すら弾く頑強さと、最新のセキュリティ機能を併せ持っている。
ここまでのことを男がしているのにはもちろん理由がある。
それほどまでにアタッシュケースの中にある物が重要だからだ。
今回この中に入っているのは書類である。正確には手紙だ。
情報とは、時に大金であり、時に兵器であり、時に命そのものである。
そして今回、その手紙に書かれた情報とは・・・希望である。
来たる来月、12月に訪れるイベント、クリスマス。
サンタクロースに願いを綴った子供たちの手紙がそのアタッシュケースに入っていた。
秘密の共有者は少ないほどいい。
男は、この世界で一握りしかいない、サンタクロースの居場所を知っている人間だった。
この情報は例え一国の大統領でも知ることのできないものである。
サンタクロースに手紙を届けることが彼の最重要任務であった。
世界中の夢と希望が入った秘密の箱を携えて、男はとあるビルの中へと姿を消した。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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