空想お散歩紀行 見えない世界
ある日から人類が皆透明人間になった。
自然現象か、未知のウイルスか、原因を特定できず世界中が一時パニックになった。
しかししばらくすると落ち着きを取り戻していった。
健康を損ねたり、これによって死ぬようなことはなく、ただ自分や他人の姿が見えなくなっただけだからだ。
外出時は服を着ていれば、どこに人がいるのかは分かる。握手が上手くできないとか、体を使ったコミュニケーションで不便は発生したが、特段日常生活が大きく変わることはなかった。
姿が見えないことを利用して犯罪に走る者も当然増加したが、テクノロジーがそれを補うのにさほど時間は掛からなかった。何にでも人は慣れていくものである。
ただ変わったものもあった。それは人間関係である。
お互いの姿が透明なためか、以前よりも距離感を大事にし、不思議と互いのことを考える人が増えた。
とりわけ恋愛に与えた影響は大きい。見た目という要素がなくなってしまったので、性格などの内面が大きな比重を持つようになった。
ただそれは、人を判断する要素が一つ減ってしまい、自由が一つ失われたとも言えるのだが。
そしてその状態がずっと続いたある日、この透明化を治し、元の姿に戻れる薬が発明された。
だが、人々はその薬を使うことを拒否した。
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