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空想お散歩紀行 クローン・リバースセクス

「ちょっと!くっつかないでよ!」
「しょうがないだろ。狭いんだから」
「リンネ、もう少し静かになさい」
「はい!先輩!」
人一人がやっと通れるくらいに道に3人。しかも一人は男ときてる。
こんな夜中にせっかく先輩と二人きりなれたと思ったら、とんでもない迷惑客に乱入された。
事の始まりは、ほんの30分前。
私と先輩の前にこの男が現れた。
もう深夜に差し掛かる時間に、しかも女子高であるこの学園の敷地内に現れたとなれば、十中八九変質者でしかありえない。
さらにこの変態は、わけの分からないことまで言い出した。
ここからそう離れていない所に惑星がある。
そこはこの星と同じ文明を持ったコピーのような星だが、一つだけ違いがある。
それは、お互いの星に住む人々はクローンである。
クローンと言うと、全く同じ遺伝子を持った複製のことだけど、厳密にはクローンではない。なぜならその一つの違いとは、男女の性別だけが逆になっている、とのこと。
そしてこいつ、ラディと名乗った男と、セレス先輩はその性別違いのクローン・・・らしい。
ヤバい。ナンパ目的だとしてももっとマシなセリフがあるだろうに。こいつは変態以上の変態だ。
その時、学園内の敷地のロボット警備が通りかかったので、さっそくこの変質者を引き渡そうとしたのだが、なぜか先輩がこの男を連れて逃げ出したのだ。私は慌てて後と追った。
そして、今に至る。
「先輩、やっぱりこいつ突き出しましょう。ヤバいですって」
「・・・・・」
私の問いかけが聞こえていないかのように先輩は黙ったまま、どこかここではない所を見ているかのようだった。
こんなふうに思案にふけっている先輩も素敵だ。
この男が、先輩とその性別違いのクローンだなんて100万歩譲ってもありえない。
もしそんなのが本当にいるのだとしたら、きっと先輩と同じように聡明で凛々しい男になるに決まってる。でも見た感じ、そんな雰囲気はこの男からは感じられない。
不審の目でラディとかいう男を見ていると、いきなり先輩が口を開いた。
「あなた、ラディでしたっけ?あなたが住んでいた星からここにはどうやって来たの?」
「ああ、この近くに俺の船がある」
「そう・・・分かった、決めたわ」
先輩は私たち二人の方を振り向くと、
「これから、その船を使ってここを出ましょう」
一瞬、その言葉の意味が分からなかったが、先輩は構うことなく先を続けた。
「その船、何人乗り?」
「一応、3人までなら余裕だけどよ」
「リンネ、あなたはここに残りなさい。これはどうやら私の問題のようだから。行きましょう」
先輩はそう言うと、物陰から出て走り出した。ラディとか言う男の方も、疑問を挟むことなくそれに続く。もしかしたらこいつの目的も先輩をここから連れ出すことだったのかもしれない。
私は、悩む間もなく体が勝手に先輩を追いかけていた。なんだか、ここで別れてしまったらもう二度と会えなくなるような気がしたから。
先輩は理由もなく行動する人じゃない、この話を聞いて何か思うことがあるのだ。
この学園に入ってからずっと先輩の背中を追い続けてきた。だから今もそうするだけだ。
この後どうなるかなんて何も分からない。だけど先輩の姿が視界に入っているだけで私は安心できる。
でもその時、私の心の中に二つの疑問が浮かんだ。
クローンの話が出てきたけど、じゃあセレス先輩とこのラディ、どっちがオリジナルなのか。
そして、話が本当なら私にもクローンがいる?それとも私がクローンなの?
全てはこの夜の闇のように何も見えず、今はただ憧れの人の背中を見ながら走ることしかできなかった。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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