空想お散歩紀行 20年越しの再会
その夜の風はいつになく生温い感じがした。
空を見上げれば星も月も見えず、街灯の灯りだけが道を照らしている。
いつもならまだ人通りもある時間帯だが、この空気のせいか、人々は皆早々に家路についたか、どこか適当な飲み屋にでも入ってしまっているようだ。
一人の男が道を歩いている。黒のコートに手袋をした、まだこの時期にしては厚着の長身の男だった。
彼にとって今日は約束の日だった。
20年前、彼はこの街で親友と別れた。
自分の夢のための道を行き、そしてお互いどうなっていようと生きている限り、20年後の今日またこの街で会おうという約束をして別れたのだ。
それから一度たりともお互いに会ってはいない。
だが男は親友の話はたびたび聞いていた。
親友の夢は、ビッグになるという実に具体性のない若者のそれだった。だが彼はその自分の道を違わず歩いて行ったのだろう。
新聞や噂話、いろいろな所で男は親友の話を耳に挟むことが度々あった。
数えきれない人間が明日の成功を夢見て挑んでいった新大陸への冒険。そこで何かお宝をその手に収めた彼は、そこから事業を立ち上げ今日まで大きくしていった。まさにビッグになるという夢を果たしたのだ。
それに引き換え、コートの男は親友とは真逆と言ってもよかった。
彼は自分自身が名声や富を得たいとは思っていなかった。彼が20年前に親友と別れる前に話した夢は、この世界を少しでも良くしたい、ただそれだけの具体性のない若者のそれだった。
男は街灯照らす道を歩きながら、懐から一枚の紙を取り出す。それが今夜の彼の仕事だった。
―――指令。
『この者、麻薬、人身売買、違法賭博等々により世の安寧を著しく乱せし。例の黄金像所有者の疑い有り。暗殺対象指定。』
短くまとめられた指令書に添付された写真を見て軽くため息をもらす。
写真に映っている、今や闇社会の大物の男の顔は、かなり人相が変わっていたと言えども、20年前の面影を微かにだが残していた。
男は黙って再びその紙と写真を服の中にしまう。そして夜の中を歩き続けた。
今夜男は、親友と再会した。
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