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空想お散歩紀行 物語の道

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空想の世界の日常を自由に描いています。
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2022年7月の記事一覧

空想お散歩紀行 夏の間はただ静かに

空想お散歩紀行 夏の間はただ静かに

世界を旅していると、いろいろな国や街に辿り着く。
今日足を踏み入れたのは、とある一つの街。
街全体が白一色だ。道から建物の壁や屋根までこれでもかというくらいに真っ白だ。
空は雲一つない青空と、眩しく輝く太陽。
そして季節は夏。俺の故郷だったら、こういう街はまさにリゾート地としてのイメージそのままだろう。
だが、この街には一切活気がなかった。
時折、建物の中で人影らしきものが動くのが見えるが、少なく

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空想お散歩紀行 地獄とはその道のり

空想お散歩紀行 地獄とはその道のり

人は誰しも終わりを迎える。そして行くべき所へ行くのだ。
それはあの世と呼ばれる場所。
しかし、この世でまだ生きている者たちはほとんど知ってはいない。
天国や極楽と呼ばれる場所と、地獄と呼ばれる場所は大きく隔たれており、この二つは交わることはないと思い込んでいる。
だが実際は、あの世とは一つの世界で区別はないのだ。
しかし天国と地獄という概念は存在する。
では、何が違うのか。
あの世に行った人々がす

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空想お散歩紀行 星の海へ、新たな旅立ち

空想お散歩紀行 星の海へ、新たな旅立ち

人はどこから来て、どこへ行くのか。
遥か古代から続く永遠のテーマである。
だが一つだけはっきりしていることがあるとすれば、人は生まれ、そして死ぬことだけだ。
死は別れではない、新たな旅立ちなのだ、という考えは世界各地に存在する。
だから人々は死者を様々な形で送り出す。
土に埋め、火で燃やし、水に沈める。
時代と共にその形は変化したり、増えたり減ったりする。
そして今、人々が仕事に旅行に、当たり前に

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空想お散歩紀行 夏の休憩

空想お散歩紀行 夏の休憩

蝉時雨が聴覚センサーを狂わさんばかりに降り注いできます。
太陽からの光と熱は私のボディを熱していきます。私には熱中症などどいうものはありませんが、過度な温度上昇はあまり良くはありません。
少し休憩するとしましょう。
木陰に入り、腰を下ろすと持参したリュックから水筒を取り出します。
自分はアンドロイドです。当然水筒の中身は水ではありません。経口補給タイプの燃料です。まあ人にとっての水と同じようなもの

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空想お散歩紀行 暑い日は外出は避けて過ごしましょう

空想お散歩紀行 暑い日は外出は避けて過ごしましょう

夏は嫌いだ。とにかく暑いから、外に出るだけで億劫になる。
技術がどれだけ発達しても結局人間は自然には勝てないのだ。
いや、これは自然よりも人間の行いの方が原因として大きいだろう。
人間が我が身のことばかり考え、自然を好き勝手に浸食していった結果なのだ。
『警報。熱中症の危険が高まっています。不用な外出は避け、屋内の涼しいところで―――』
携帯端末がアラームを鳴らす。この夏でもう何度目か分からない。

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空想お散歩紀行 ゾンビシティー・ナイトウォーク

空想お散歩紀行 ゾンビシティー・ナイトウォーク

まだ昼間の熱が冷めやらぬ宵の口。
青白い街灯が並ぶ道は涼やかな雰囲気を通り越して薄気味悪ささえ感じられた。
「キャアアアアッッ!!」
突如通りの一角から、女性の叫び声が街中にこだまする。
その直後、一目散に走る二人の女性の姿があった。
彼女たちが逃げてきた先には一人の人間が立っていた。いや、それは人間ではなかった。
立ち姿こそ人間に酷似しているが、その皮膚はただれ、片方の目玉は今にも落ちそうなほど

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空想お散歩紀行 どこまでも果てしない青と青の間で

空想お散歩紀行 どこまでも果てしない青と青の間で

『それではこれより―――』
室内に船長からのアナウンスが流れる。
少年が一人、まだ港が見える自室の窓からこれから進む海の先を見つめていた。
小学生の彼が夏休みを利用して、アメリカに住んでいる叔父の所へ一人で行く。
彼にとっては人生で初の大冒険の始まりだ。
交通機関は発達に発達を重ね、今や東京シアトル間なら超々音速旅客機で2時間で行ける時代だ。
そんな時代にあって、あえて時間を掛けて海を渡ることが、

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空想お散歩紀行 テクノロジー彼岸

空想お散歩紀行 テクノロジー彼岸

男は目を覚ます。朝日が少し入ってくる六畳ほどの部屋。床に直に敷いた布団から体を起こし、壁に掛かっているカレンダーを見ると、7月24日。
今いる部屋にエアコンは無く、タイマーが切れた扇風機が一台置いてあった。
一瞬、彼はここがどこか分からなかったが、すぐに頭の中に情報が流れ込んでくる。
ここで目覚めたということは、自分はついに死んだのだと、彼はすぐに悟った。
38歳のときに、彼は自分自身の全ての情報

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空想お散歩紀行 ドメスティック・シークレット

空想お散歩紀行 ドメスティック・シークレット

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
いつもの朝の風景だ。僕がランドセルを背負って家を出る10分前にパパが先に出発する。
ママは必ず玄関まで見送りに行く。
そして僕が学校に行くときもママは同じように見送ってくれる。
いつもの朝の風景だ。
でも、僕は知っている。
パパは会社に行って、毎日僕やママのために働いてくれている・・・とママは思っている。
けど実際は違う。パパは世界を救うヒーローなのだ。

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空想お散歩紀行 お盆の過ごし方

空想お散歩紀行 お盆の過ごし方

「お盆どうする?」
「俺は例年通り実家かな。お前は?」
「俺は今年は仕事だよ。出演の」
「あ、そうなの。出演って、今どき写真?」
「まさか」
友人同士が軽い会話を楽しむ。軽いのは会話だけではない。彼らの体もまた軽い。
なぜなら彼らには足が無く、ふわふわと浮いているから。
幽霊たちの夏の予定。一人は精霊馬で実家へ、もう一人は、
「心霊写真なんてもう誰も撮らないからな。ありゃフィルム時代のもんだ」

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空想お散歩紀行 職人、その情熱

空想お散歩紀行 職人、その情熱

職人の朝は早い。
まだ日が完全に昇らないうちから田んぼに行き、稲の成長を観察する。
黄金色の稲穂がその頭を下げている。もうすぐ収穫の時を前に、彼は満足そうに微笑む。
しかし、目的は米の方ではない。米はあくまで副産物。目的は稲の茎の方だ。
収穫後、それを天日に干すことで藁が出来上がる。日に当てる時間が多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけない。
そのさじ加減を長年の経験と勘で見極めてこそ職人が職人と

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空想お散歩紀行 冒険が始まる前に

空想お散歩紀行 冒険が始まる前に

世界中に点在するダンジョンや遺跡。それらは未だ解明されぬ古代の謎を無数に秘めた宝箱であると同時に、迂闊な興味だけで足を踏み入れた者を奈落の底へと引きずり込む地獄への入口でもあった。
そんな危険な場所であるがゆえに、そこへ挑むのは研究者と呼ばれる者たちよりも圧倒的に冒険者たちである。
腕に覚えのある冒険者たちだが、彼らも自分の力だけで冒険ができるわけではない。
武器や道具、休息など、必要なものは手に

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空想お散歩紀行 水の上でちょっと休憩

空想お散歩紀行 水の上でちょっと休憩

「えーと、155番を右に曲がって38番に入ったら、次は69番を左に・・・って、ややこしいな。列車にすればよかったかな、やっぱり」
地図とにらめっこしながら、お金をケチった自分を今さらながら少し恨み始めていた。
周りを見渡すと同じように道行く人々。
上を見上げれば青い空。今日は久しぶりのいい天気だ。
そして下を見下ろすと、空に負けないくらいの青が広がっている。
一面の水が、空の太陽と雲をまるで鏡のよ

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空想お散歩紀行 魔法使いの空ゆく家

空想お散歩紀行 魔法使いの空ゆく家

朝は静かに過ごしたい。晴れの日だろうが、雨の日だろうが、お気に入りのコーヒーを飲みながら、水晶で作った壁に映るニュースを見ながら世界の動きを観察するのだ。
窓の外を流れる景色を眺めながら過ごすこの時間は、一日の始まりに落ち着きを与えてくれる・・・はずだったのだが。
窓から見える景色に、不自然な黒い煙が見える。
どうやら場所的に3番魔導炉に何かあったようだ。
やれやれだ。どうやら今朝は静かな時間は過

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