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空想お散歩紀行 夏の間はただ静かに

世界を旅していると、いろいろな国や街に辿り着く。
今日足を踏み入れたのは、とある一つの街。
街全体が白一色だ。道から建物の壁や屋根までこれでもかというくらいに真っ白だ。
空は雲一つない青空と、眩しく輝く太陽。
そして季節は夏。俺の故郷だったら、こういう街はまさにリゾート地としてのイメージそのままだろう。
だが、この街には一切活気がなかった。
時折、建物の中で人影らしきものが動くのが見えるが、少なくとも屋外に出ている人間は一人もいない。
いや、人間だけではない。夏と言えば生き物が最も盛んな時期だ。少なくとも俺の故郷ではそうだ。さまざまな虫たちが地を這い、空を飛び、大きな鳴き声を上げている。
だがここでは、そんな生き物たちの声すら聞こえない。
あまりに静かすぎて、太陽が地面を焼く音が聞こえてきそうなほどだった。
この風景を見て、俺は初めて確信を持った。
ここに来る前に訪れた街で聞いた話や、以前に本で読んだことは本当だったようだ。
この地域は、夏にとてつもなく暑くなる。確かに俺は今既に汗だくだ。でも耐えられないわけではない。
だがここの住人達は違う。
元々ここは気温が低い地域で、一年の半分は雪と氷に覆われる。
だが、一年のうち約二ヶ月だけ夏が来る。
その暑さに住人達は耐えることができないのだ。
だから夏の期間だけは、屋内に閉じこもりほぼ外出しない。街全体が白一色なのも、少しでも太陽の熱を吸収しないようにする工夫なのだ。
夏の間は一切外に出ない。冬眠という言葉は聞いたことあるが、それの逆、夏眠をするのがこの地域の特色だ。
それは人間だけではない。先程から人間以外の生き物の気配も感じないのは、そいつらも夏眠をしているからだ。
動物や虫たちも、水の底や森の奥深くなど、一日中太陽が当たらない場所に巣を作って、そこで夏を凌ぐらしい。
音を立てないのにギラギラとうるさい太陽の下で動きのない静かな街の風景は、妙なアンバランスさを生み、すこし不気味な感じさえする。
夜になれば、多少は店が開いたりと街が動き出すらしいので、それまで俺もどこか涼しい所で休んでいるとしよう。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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