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空想お散歩紀行 職人、その情熱

職人の朝は早い。
まだ日が完全に昇らないうちから田んぼに行き、稲の成長を観察する。
黄金色の稲穂がその頭を下げている。もうすぐ収穫の時を前に、彼は満足そうに微笑む。
しかし、目的は米の方ではない。米はあくまで副産物。目的は稲の茎の方だ。
収穫後、それを天日に干すことで藁が出来上がる。日に当てる時間が多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけない。
そのさじ加減を長年の経験と勘で見極めてこそ職人が職人と呼ばれる所以である。
彼は、少しでも上質の藁を作るために日夜油断せず作物を育てる。良き稲が出来なければ良き藁は作れない。
稲の様子を一通り確認し終えた彼は、その日の仕事のために作業場に入っていく。
その中は、熱が支配する空間だった。
熱く蒸された空気が部屋の隅々まで行き渡っている。
大量の石が赤い光を放ち、辺りの空気を歪ませる。一目見て高温だと分かる状態だ。
その石たちの中に鉄の延べ板が突っ込まれ、石と同じく赤い光でその身を包んでいた。
彼はここで鉄を打っている。
職人である彼は、素材選びから妥協しない。
少しでも品質の良い鉄を手に入れるための苦労は惜しまない。
良い素材と良い腕が良い品を作り出すことは自明の理だ。
彼は金槌で何度も鉄を叩き、延ばし、折り、また叩く。そしてそれを水に付けると鉄は悲鳴のように音を立て、水蒸気を上げる。
そしてまた叩く。この繰り返し。この単純な連続の動きが鉄を強くする。
力が物を言う作業の後は、業の出番だ。
鍛え上げた鉄を器用に延ばし、先を尖らせ、削り磨いていく。
そして出来上がるのは鋭い先端を持った立派な五寸釘であった。
この五寸釘と藁で編んだ人形。呪いの藁人形職人としての彼の作品である。
どちらも一切の妥協許さぬ、こだわりにこだわりぬいた匠の業光る物だった。
作業が一段落した彼は、休憩のために席を立つ。
作業場から一歩外に出ると、ほんのささやかなそよ風がとても心地いい。
蒸し風呂のような部屋でかいた汗だくの体を風が優しく通り抜けていく。
この瞬間が彼は好きだった。まさに仕事の後のだからこそ味わえる充実感とも言うべき爽やかな気分だ。
こうして彼が作った藁人形と五寸釘が、それを待っている人の所へと運ばれていく。
~職人、その道を歩む理由~より。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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