空想お散歩紀行 どこまでも果てしない青と青の間で
『それではこれより―――』
室内に船長からのアナウンスが流れる。
少年が一人、まだ港が見える自室の窓からこれから進む海の先を見つめていた。
小学生の彼が夏休みを利用して、アメリカに住んでいる叔父の所へ一人で行く。
彼にとっては人生で初の大冒険の始まりだ。
交通機関は発達に発達を重ね、今や東京シアトル間なら超々音速旅客機で2時間で行ける時代だ。
そんな時代にあって、あえて時間を掛けて海を渡ることが、密かな人気を博していた。
少年はこれから15日間の太平洋横断の旅に出る。
『―――長い航海になりますが、どうぞごゆっくりお楽しみください』
船長の挨拶が終わると同時に窓の外から出発の合図である汽笛が大きく鳴り響いた。
ゆっくりと、だが確実に岸から離れていく客船。
数時間後には、360度水平線に囲まれた海の世界だ。
少年はまだ知らない。15日間の中で、この船で出会う様々な人と一つの物語を紡ぐことを。
同じく一人旅の少女。50年前に同じく船で旅をした老夫婦。アメリカで個展を開催予定の悩める芸術家。さすらいのギャンブラー。
日本でとある罪を犯し逃亡中の犯罪者。この客船に10年前から住み着いている幽霊。地球視察に来た宇宙人。
人も人ならざる者も、その想いを海は全て受け入れて船は進む。
空と海、青の世界に挟まれたそこで、少年の忘れることのできない15日間が始まる。
その他の物語
https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5
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