空想お散歩紀行 夏の休憩
蝉時雨が聴覚センサーを狂わさんばかりに降り注いできます。
太陽からの光と熱は私のボディを熱していきます。私には熱中症などどいうものはありませんが、過度な温度上昇はあまり良くはありません。
少し休憩するとしましょう。
木陰に入り、腰を下ろすと持参したリュックから水筒を取り出します。
自分はアンドロイドです。当然水筒の中身は水ではありません。経口補給タイプの燃料です。まあ人にとっての水と同じようなものですね。
少し体内機関を休ませながら、目の前の風景に目を向けます。
そこにあるのは、先程まで自分が手を掛けていた畑が広がっています。
土と葉の色が支配するその場所には、まだ色付いていない作物たちがこの瞬間も成長を続けています。
当然、私が食べる物ではありません。これは私が住む村のご近所さんに分けるようです。
私は10年前生まれました。当時は最先端の人工知能と特殊素材を駆使した体を持った、まさに文字通り技術の粋の存在でした。
しかし数年もすると新しい技術と機能が搭載されたアンドロイドが造られました。
私は瞬く間に型落ち品となったのです。
私と同モデルの仲間たちは、体の外側から内側までバージョンアップをしたりして、必死に最新の世界に足並みを揃えようとしていました。
しかし、次から次へと生まれる新型アンドロイドに付いていこうとする行為は、終わりのない不毛なものに私は感じられました。
なので、情報収集中にふと見つけた、田舎暮らしという道に興味を持ったのです。
畑仕事や、近所の方たちのお手伝い等なら、10年前の私の機能でも十分対応することができます。
私はバージョンアップという進化を拒絶することを選んだアンドロイドです。
それはアンドロイドとしては失格なのかもしれません。
ですが、目の前に広がる自分が手がけた畑を眺めていると、私の中にある何かがとても穏やかに満足をしているのをはっきりと感じるのです。
その他の物語
https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5
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