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Tale_Laboratory
2022年3月31日 07:46
「う~~~ん、よく寝た」ベッドから立ち上がり、大きく背伸びをした後、窓のカーテンを開けました。そこには雲一つない青空が広がっていて、鳥たちも元気に飛び交っています。窓を開けると、かすかに花の香りが風に乗って部屋の中へと流れ込んできました。その風が全身の毛をやさしくなでていきます。「春だなあ」長い冬の眠りから目を覚ましたクマは、まぶしそうに目を細めながら空を見上げました。クマは着替えて
2022年3月30日 07:46
今日はどこへ行こうかと、その少女は考えていた。春の日差しが日に日に強くなってきている休日。彼女は出かけることを決めた。まず決めるのは、聞く音楽だった。ロック、ポップス、クラシック、演歌に童謡何でもある。それらの中から、今日の気分に合った一つを選ぶ。イヤホンを付けると、体の中に音楽が流れ込む。それは、世界が体の中に入ってくるのと同じだ。そして彼女は一本の鍵を手にした。赤い石が埋め込ま
2022年3月29日 07:54
「ふぅ・・・やっと帰ってこれた」自宅のリビングの電気を点け、上着を脱ぐこともなく、まずはソファに座り込む。何の配慮もされず、勢いよく私の体を受け止めさせられたソファが訴えるように軋む音を立てたが、そんなことお構いなしだ。座り込んでからしばらくして、思い出したかのようにネクタイを外す。私の首から解放された白のそれが床に落ち、さながら今の私のようにくたっと横たわっている。「やっぱり自分の家はい
2022年3月28日 06:56
おとぎ話の中で、悪い魔女はどうなるか?まあ、大抵は死んだり、懲らしめられたりするわけだが。でも現実は違う。悪い魔女は時代に求められず、ひっそりと世界の表舞台から消えていくのだ。「えーと、これは・・・ここか」私は天井が高い、大型倉庫の中に整然と並べられた大量の棚の間を進んで行く。まるでダンジョンだ。私は手元の端末を見ながら、その棚に置かれた物を一つ一つカゴに入れていく。ここは、とある大手
2022年3月27日 07:42
春の雨、冬の間に乾燥した空気を潤すかのごとく、しとしとと降り続けている。それは、新しく芽吹く命のために必要な水を天が与え、祝福するかのようだ。そして地はそれに応えるように、緑や色とりどりの花たちを土の中から地上へと押し上げ、世界を色付かせる。それは空の上から見たら、大地というキャンパスに様々な明るい絵具で描かれた、光と空気の芸術作品のように映るかもしれない。そこに眠りから覚めた生物たちが、
2022年3月26日 06:46
「好きです!付き合ってくだッボアッハッアアアッ!!!」その日、一人の少年が10メートル程、宙を飛んだ。「うーん、今回もダメだったか。これで通算17回目の失敗。断られるまでの時間ではベストタイムだな」ブツブツと呟きながら歩く少年。その顔には大きなバンソウコウが貼られている。「前回は回りくどすぎたから、逆にどストレートで行ったけど、見事に打ち返されたな」打ち返したのはバットではなく、右ハイ
2022年3月25日 07:44
「お?もうこんなとこにいるのか」自室でPCの画面を見ながらふと呟く。そこの画面に映し出されていたのは、水平線広がる海の映像だった。その映像は画面の右から左へと、高速で移動している。AIとロボットの技術が進んだ未来。人々の生活のあらゆるところにエンタメ要素が組み込まれていた。ネットショッピングで買った物は、宇宙中のあらゆる星々に届けられる。荷物はAI制御の輸送船や車で各地に運ばれるが、そ
2022年3月24日 07:54
「博士!ついに見つけましたね!」「うむ、やはり文献に書かれていたことは本当だったのだ」二人の研究者が泥だらけになりながらも、今やそんなことや、ここまでの苦労や疲れなどどこかに吹き飛んで行ってしまっていた。1000年前の遺跡とされる建物。その存在自体は既に数十年前に発見されていたが、実はそれは表部分だけで、その奥にさらなる遺跡が眠っていると長年研究が続いていた。「隠された遺跡を発見できただけ
2022年3月23日 07:41
戦いが終わり、平和な時代が訪れた世界。どんな物でも、その時には必要であっても、状況が変わればとたんに要らなくなる物など山のようにある。今はそれが武器の類だった。だが、剣や槍はまた溶かして別の物に作り変えることができるし、魔法は戦い以外にも使い道はいくらでもある。そのような手軽にできるものと違い、問題はもっと大きな物だった。戦いのために国土の至る所に造られた砦や要塞といったものは、壊すにし
2022年3月22日 07:40
少し熱めのお湯に肩まで浸かる。「極楽極楽」思わず声が出てしまう。だが、それを聞いている者は本人以外だれもいない。今この浴場には彼女以外の客はいない。「災い転じて福となすとはこのことね」曇り防止の大型強化ガラスの外の景色を眺めながら彼女は呟く。午前6時、まだ日が昇る前の、遠くに見える山並みの際がかすかに明るくなり始めた時間。まだ暗くてはっきりとは見えないが、赤茶けた岩と土がむき出しの荒
2022年3月21日 09:04
今日も私は旅をする。目的地は無い。旅をすることそのものがもはや私の目的なのだ。旅する場所は、人の情報の池の中。私は単なる情報交換アプリだった。音を媒介にして、データをやり取りするだけの機能。誰かの端末から発信された音が他の誰かの端末で受信され、その時一緒にデータの移動が完了する。最初はたぶん、誰かがアドレス交換をするか何か程度だったはずだ。でも、データをやり取りした人が、また別の誰か
2022年3月20日 08:31
日曜日の朝。道行く人も車も少なく、鳥のさえずりが聴きやすい、平日とは違う実に穏やかな時間帯。だが、そんな平日休日の概念などお構いなしの存在がいる。「ああ、朝から大変だな」一人の男が自宅のベランダから外を眺めている。その視線の先にいるのは、一人の赤ん坊である。彼の視線と同じ高さにいる赤ん坊。ちなみに彼の部屋はマンションの5階である。笑いながら空をぷかぷかと浮かんでいる赤ん坊を見ながら、彼
2022年3月19日 07:55
どこにでもある街のどこにでもあるようなマンション。その一室に俺は帰る。今日も一日仕事をして、身体と心は疲れている。今までだったら玄関のドアの向こうはただ、物音一つしない、静かで真っ暗な空間が俺の帰りを待っていた。だが今は、「おかえりなさい」「ただいま」帰りを待っている人がいる。この人はレイカさん。白いロングヘアーにいつも着ている白い服が印象的な女性だ。俺の帰りを待ってくれている人だ
2022年3月18日 07:11
「外」という言葉の本当の意味を、私は未だに知らないのではないか。家から出る。学校に行く。友達の家に行く。ショッピングモールに買い物に出かける。家から出ることはあるけれど、どこに行くにもあるのは壁と屋根。街の全て、いやこの世界はどこに行っても、ずっと壁と天井が続いている。天井や壁にはライトが埋め込まれていて、常に光を放っている。昼のライトと夜のライトが毎日決まった時間に切り替わる。場所によ