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空想お散歩紀行 同棲霊生活

どこにでもある街のどこにでもあるようなマンション。
その一室に俺は帰る。今日も一日仕事をして、身体と心は疲れている。
今までだったら玄関のドアの向こうはただ、物音一つしない、静かで真っ暗な空間が俺の帰りを待っていた。
だが今は、
「おかえりなさい」
「ただいま」
帰りを待っている人がいる。
この人はレイカさん。白いロングヘアーにいつも着ている白い服が印象的な女性だ。
俺の帰りを待ってくれている人だが、俺たちは夫婦ではない。同棲中の恋人でもない。
俺が今しているのは、言わば憑りつかれ生活だ。
俺が働いているのは、とある捜査機関。
そこは現実の警察組織では取り締まることができない。人知を超えた超常現象や幻想生物
等に関わる犯罪を捜査している。
今回俺に与えられた仕事は、ある霊能力者の捜査だ。
そいつは、表向きはどこにでもいるようなカウンセラーとして活動しているが、どうやら霊に憑りつかれた人を中心に相談に乗っているらしい。どうやってそういう人間を集めているのかはまだ不明だが、別の捜査員の調査によると、そいつのカウンセリングを受けた人は、皆一様に悩みが解決したともっぱらの評判だ。
その理由は、それまで憑いていた霊が取り除かれたことによるところが大きい。
では、取り除かれた霊はどこにいったのか?
どうやら、やつがどこかに貯め込んでいる可能性が浮上してきた。
少なく見積もっても300以上の大小様々な霊が既にやつの手にあると思っていい。
俺がやるべきことは、まず接触すること。
やつはまず、メールで相談を受けつけ、その後直接会うかどうかを決めるという手法を取っている。
どうやらここで、なにかしらの方法で霊が憑りついている者とそうでない者を見極めているようだ。
だから、今の生活なのだ。
レイカさんは幽霊である。ある日上から紹介された彼女と共同生活をすることで、やつに俺を憑りつかれた人間と誤解させるのだ。
相手は一級の霊能力者だ。生半可な憑りつかれ具合では見抜かれてしまう可能性が高い。
既に一ヶ月、彼女と同居生活を続けている。
「おいしいですか?」
「うん」
コンビニで買ってきた弁当を食べていると彼女が尋ねてくる。
レイカさんは幽霊だから、料理は作れないし、食べる必要もない。
今も、ただテーブルの向かいに座っているだけだ。
ただそれだけなのに、いつもと何の変哲もない弁当がなぜか美味しく感じるから不思議だ。
霊と心を通わすことは人と霊の結びつきを強くする。それが今回の捜査では鍵になる。
そう、全ては犯罪を未然に防ぐために必要なことなのだ。
レイカさんとの関係もあくまで今回の仕事だけの話、のはずなのだが・・・
彼女はただ弁当を食べている俺を見ているだけだ。なのに妙に楽しそうなのが手に取るように伝わってくる。
俺ははっきりと自覚していた。
この捜査が、いや、この妙な共同生活の時間が、もう少し長く続いてくれればと。

https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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