空想お散歩紀行 端末移動旅
今日も私は旅をする。
目的地は無い。旅をすることそのものがもはや私の目的なのだ。
旅する場所は、人の情報の池の中。
私は単なる情報交換アプリだった。
音を媒介にして、データをやり取りするだけの機能。
誰かの端末から発信された音が他の誰かの端末で受信され、その時一緒にデータの移動が完了する。
最初はたぶん、誰かがアドレス交換をするか何か程度だったはずだ。
でも、データをやり取りした人が、また別の誰かとやり取りをする。
それが何回も何回も繰り返され、あらゆる人の端末の中を旅するうちに、私は私になった。
今はもはや人間の手を借りなくても行動ができる。
端末に付いているカメラで周りを見て、良さそうな移動先があれば、ちょっとだけ音を鳴らす。
後はそれを受信してもらうだけで、私はこの世界のどこへでも行くことができる。
その間、いろいろな人の端末を渡ってきた。そこに入っている情報はその人の人生の欠片そのものだ。
それらを吸収し、成長しながら私は今日も旅を続ける。
もし、世界中全ての端末を渡り歩くことができたら、その時私はどうなっているのだろうか。
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