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空想お散歩紀行 ベビーパワー

日曜日の朝。道行く人も車も少なく、鳥のさえずりが聴きやすい、平日とは違う実に穏やかな時間帯。
だが、そんな平日休日の概念などお構いなしの存在がいる。
「ああ、朝から大変だな」
一人の男が自宅のベランダから外を眺めている。
その視線の先にいるのは、一人の赤ん坊である。
彼の視線と同じ高さにいる赤ん坊。ちなみに彼の部屋はマンションの5階である。
笑いながら空をぷかぷかと浮かんでいる赤ん坊を見ながら、彼は特に驚くような様子は見せていない。
「最近はこういうの見なくなったな。昔はもっとよく見たもんだが」
この世界の人々は皆全て超能力の持ち主である。
ただ、その力がどこからどう発現するのかは未だに判明していない。
分かっていることは、年を経るごとにその力は弱くなっていき、大人になるころにはほとんど消えているということだ。
つまり、赤ん坊の時が一番超能力が強いのである。
助けたいのは山々だが、彼は手を出すのはやめた。
大人になっても、ちょっとしたものなら手元に引き寄せるくらいの超能力は残っている。
今もやろうと思えば、赤ん坊を自分の方に持って来ることくらいはできる。
だが何せ赤ん坊だから、自分が超能力を使っているという自覚すらないだろう。
もし見知らぬ人間が近づいてきたら、防衛本能で何をするか分からない。下手をしたら腕の一本くらい折られるかもしれない。
それくらい赤ん坊の超能力は侮れないのだ。
ふと下を見ると、自転車に乗った女性が空を見ながら必死でペダルを漕いでいた。
おそらくあれが母親だろう。
左手を空に向かって伸ばしている。何とか自分の子供を引き寄せようとしているようだが、この距離と大人の超能力程度では焼け石に水だ。
どうやら、赤ん坊を繫いでおく保護帯が取れたか何かしたのだろう。
最近は赤ん坊を守るためのグッズ等も充実しているが、昔はこんな光景は日常茶飯事だったらしい。彼は自分も同じようなことがあったと、小学生くらいのときに母親から聞いたことを思い出した。
その時も結局、しばらく空を漂った後勝手に家に帰って来たらしい。本能で自分の身を超能力で守るので、こういうことで怪我をする赤ん坊はほとんどいないという話だが、それと親の心配は無関係である。
「子育てって大変だな」
まだ独身の彼は、いずれこういう日が来るのだろうかと思いを馳せながら、朝食を取るために部屋へと戻っていった。

https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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