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空想お散歩紀行 砦カフェ

戦いが終わり、平和な時代が訪れた世界。
どんな物でも、その時には必要であっても、状況が変わればとたんに要らなくなる物など山のようにある。
今はそれが武器の類だった。
だが、剣や槍はまた溶かして別の物に作り変えることができるし、魔法は戦い以外にも使い道はいくらでもある。
そのような手軽にできるものと違い、問題はもっと大きな物だった。
戦いのために国土の至る所に造られた砦や要塞といったものは、壊すにしても人手が掛かるし、いつしか歴史の名残として自然に朽ちていくのを待つしかないと思われていた。
だが、どんな状況でもチャンスと考える者はいつの世もいるものだ。
その者は、戦いが終わったことで今まで思うように旅ができなかった人々が、また旅を始めるとふんでいた。
だから、各地にある砦の跡を改修し、カフェへと変えていったのだ。
元軍事施設ということは、陸上の要所にあるということ。つまり旅をする際にも何かと便利な場所にあるということだ。
戦いの場であった雰囲気をなるべく残す形で改修されたカフェは、旅人たちの人気を博した。
そこで繰り広げられた、魂燃えるような熱気や、涙も枯れるほどの悲劇に想いをはせながら、客たちは今の時間を噛みしめた。
さらに、砦よりも規模が大きい要塞はちょっとした宿泊所として改修された。
特に、この戦いで英雄的な活躍を遂げた勇者が一時を過ごしたとされる要塞は、ある意味一流のホテルより人気があった。
多くの旅人がそこで眠り、あの戦いの追体験の夢を見る。
この企画を考えた者は純粋に商売のことしか考えていなかったのかもしれない。だが、結果として人々にあの戦いの想いが継がれていくこととなる。
もしかしたら一時かもしれないこの平和を、一杯のコーヒーと共に味わうのだった。

https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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