空想お散歩紀行 新しい人生の門出は多種多様
「ふぅ・・・やっと帰ってこれた」
自宅のリビングの電気を点け、上着を脱ぐこともなく、まずはソファに座り込む。
何の配慮もされず、勢いよく私の体を受け止めさせられたソファが訴えるように軋む音を立てたが、そんなことお構いなしだ。
座り込んでからしばらくして、思い出したかのようにネクタイを外す。私の首から解放された白のそれが床に落ち、さながら今の私のようにくたっと横たわっている。
「やっぱり自分の家はいい」
静寂に包まれた一人暮らしの家が、今の私には最高の癒しだった。
今日は友人の結婚式だった。この歳になると、周りもちらほらと結婚するやつが出てくる。
当然めでたいことだと思うし、私も祝福する気持ちは持っているのだが・・・
「結婚式は身内だけでやってくれないかな」
思わず口から言葉が漏れていた。
いや、堅苦しい服装とか、中途半端な時間に食べさせられる食事とか、そのあたりは大した問題ではない。
大変なのは、場所なのだ。
今日行ってきた結婚式場は海底だった。
多種族が溢れる世界。多様性が重視される今の世の中では、異種族婚など珍しくもなくなっている。
私の友人は人間だが、相手の新婦さんは人魚族だった。
だから式場が海の中だったわけだ。
水の中でも生活ができる魔導術式のおかげで、海底でも息はできるし、食事もできるのだが、ずっと水の中にいるという感覚はどうにも違和感しかない。
確かに地上ではできない催しんばかりで珍しくはあったのだが。
この前の他の友人の結婚式は逆に天界まで行くことになった。新婦が天使族だったからだ。
さすが天使族だけあって、祝福は豪華絢爛な結婚式だったのだが、いかんせん式場まで遠かった。それに天界は都市の交通が複雑なのだ。セフィロトの乗り換え案内を何度も確認しながら、式場まで行ったのを覚えている。
これらに比べれば、エルフ族の女友達の結婚式は楽だった。人間族の和風の結婚式で、白無垢を着た彼女は綺麗だった。他の種族もあれくらいの結婚式にしてくれたらいいのに。
まあ、向こうも同じことを考えてるだろうが。
一息つき、着替えるために立ち上がる。
その時、式が終わった際にもらった引き出物が入った袋が目に入った。
中身を取り出すと、「玉手箱」と書かれた箱が出てきた。
「変なところで洒落っ気を出しやがって・・・」
中身は普通に饅頭だった。
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