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Tale_Laboratory
2021年5月31日 10:29
「これはまた無茶を言う」黒髪の男は頭を搔きながら、資料を読み進めていった。「今度は一体何を注文されたんですか?」隣に立っている彼の秘書官が尋ねる。自分の上官が無茶を言われるのはこれが初めてではない。彼らは軍の特殊部隊に在籍している軍人だ。しかし困り顔で資料を読んでいるその男はいわゆる軍人として優れているから今の席に座っているわけではない。運動能力があるわけではない。むしろそこらへんの子
2021年5月30日 15:29
技術が発達するということは、それまで使われていたものが廃れていくということでもある。それがどれだけ長い伝統を持っているものであろうとも。狭い部屋に似つかわしくない、豪奢な長机や絵画が、衰退の中の悪あがきのように見えなくもない。彼らは魔導士協会に所属する魔法使いたち。今はまだ、社会の中に魔法使いは多数存在する。しかし、年々その数が減っているのは間違いない。そこでその問題をどうするのかが今回の
2021年5月29日 11:40
あらゆる物事は進化している。そのスピードは様々だが、間違いなく先に進んでいる。進んだ先がいいことなのか悪いことなのか、それは分からないが。とにかく進化しているのだ。それは俺たちカラスも同じ。少なくとも大昔のカラスは人間の捨てたゴミ袋の開け方なんて知らなかったはずだ。強さで言えば鷲とか鷹があがるのかもしれないが、賢いのは俺たちカラスだ。攻撃しか知らない獣は決して頂点に立つことはできない。い
2021年5月28日 11:37
突然ですが、私は今ピンチです。「ちょっと!どういうことなのよッ!!」私は思わず叫んでいた。私、トレジャーハンターのサリーナはお宝の情報があれば世界のどこにでも向かう。今回も、やっとのことで得た情報でついに辿り着いた古代遺跡。でも貴重なお宝が眠っている場所ほど、危険な罠や怪物がウヨウヨしてるってもの。だから私は、用心棒を雇った。魔導士のルナ。女の子で、私と同い年くらいなのにも関わらず、
2021年5月27日 11:16
深い森の中。巨大な木々や植物の数々。大小様々な虫や動物が住む地帯。人間は決して住むことのできない危険なその場所に今、二人の男がいた。「・・・行ったか?」「ええ、行ったみたいです」短く言葉を交わした直後、二人は大きく息を吐いた。まるで何時間も息を止めていたかのような気持ちだった。実際は十数秒だったのだが。「今のは危なかったな」「何とかバレませんでしたね」二人が姿を隠している岩の隙間から覗
2021年5月26日 13:04
建付けの悪い木のドアが不快な音を鳴らしながら開く。「あ、おかえりー」少女が明るい笑顔で出迎える。質素な木造の小屋の中は、常に光を発する特殊な鉱石でできたランプが照らしている。そうした物があるのは、ここが灯りを常に必要としているからだ。「今日はどうだった?」「驚くなよミナ。中型のブラックドラゴンやったぜ。ありゃランク4は堅いな」ミナと呼ばれたその報告にさらに顔を明るくした。その反応に背
2021年5月25日 11:47
人類が地球の次に降り立った大地、月。そして人類はやがて、地球を飛び出し宇宙へと旅立った。今ではいくつもの惑星に人々は移住し、月もその内の一つに過ぎなかった。しかし、その月で今大きなトラブルが起きていた。「かつて地球にはたくさんの伝説があってな」突然一人の男が話し出した。ヘルメットとプロテクターに身を包んだその男は、この月に派遣されてきた特殊部隊の分隊長だった。彼と同じ格好の者が他に4人
2021年5月24日 10:27
教会の鐘が鳴り響く朝。いつもの変わらない爽やかな空気が私は大好きです。私の名前はシャルロッテ。この教会でシスターを勤めています。神への奉仕と同時に私がたまわっている仕事がもう一つ。「皆さんおはようございます」教会に隣接している建物。その中の一つの部屋。そこは机が並び、黒板があり教壇がある。そう、私のもう一つの仕事は学校の先生なのです。しかし、教えているのは子供というわけではありません。
2021年5月23日 11:02
薄暗い通路に響くのは誰かが歩く靴の音だけ。わずかな灯りだけがその空間を照らす。それだけで分かることは、その空間は想像以上に広いということ。通路は小型の飛行機なら十分入るほどあり、天井も高い。通路の両側は五つの階層で構成され吹き抜けになっている。両側の階層はどちらも壁一面に等間隔で部屋が設置されている。しかし、その部屋の入口を担っているのはドアではない。鉄格子だ。ここは宇宙にあるとある惑星。
2021年5月22日 10:13
重く暗い雲が立ち込める空。地面では生暖かい風が草をなでていた。そのだだっ広い平野には二つの軍勢が互いに睨みをきかせ、一触即発の状態だった。片方は刀や槍を携え、鎧に身を包んだ男たち。侍と呼ばれる者たち。そしてもう一方は、異質だった。人の形はしており、侍たちと同様鎧を身につけているが、その身体は木と鉄で作られており、多くが同じ顔。しかも表情もあるのかないのか分からない。ただ目の部分には赤い光だ
2021年5月21日 10:50
秩序を守る。それは穏やかな川の流れが急に増えたり減ったりしないよう、常に一定を保つようにすること。「はい。午後2時37分逮捕」警察官、アレン・ウォルフは犯人に手錠を掛けそう告げた。しかしその時、彼の横を一人の通行人が通り過ぎた。その通行人にはアレンが一人でそこに立ち、何かを言っているようにしか見えていない。通行人は不思議に思いながらもその場を歩き去った。だがアレンには見えている。自分の
2021年5月20日 09:56
多くの人が行きかい、挨拶を交わす。いつもの朝の風景。ただ一ついつもと違うことを除けば。それは、道に等間隔に並ぶ街灯のその全てが火を灯しているということだ。周りは暗闇に包まれている。空に一切の光はない。時計は朝の時間を指しているが、景色は夜。しかしそれに驚いている人は一人もいない。「おはよう。あれ、あいつは?」「ああ、今日誕生日だから」この世界には一つの決まり事があった。その日、誕生
2021年5月19日 09:52
思い描いていたことが外れるということはよくあることだ。よくあることだと分かってはいても、それでもガッカリする気持ちが無くなるわけではない。やっと念願の目的を果たしたと思った。この天上都市に住むことができるようになって。今や、地上は例の大災厄で住める場所がどんどん小さくなっている。人は住む場所を求め、空へと昇った。そして詳しい理屈はよく知らないが、雲を地面のようにする技術で、そこを新たな居住
2021年5月18日 11:25
「まだまだだな」バサッと机の上に投げられる紙の束。それはとある計画書の束であった。目の前で計画書を投げられた、それを書いた本人、ロランは不満足そうな顔で前を見る。「僕としてはちゃんとした出来になっていると思うのですが」丁寧な言葉遣いに収まっているが、声の端々には明らかに苛立ちが顔を出している。それに気付いているのかいないのか。ロランの上司であるヒゲの男、ガイクスは机の上に脚を投げたまま答