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空想お散歩紀行 月と伝説

人類が地球の次に降り立った大地、月。
そして人類はやがて、地球を飛び出し宇宙へと旅立った。
今ではいくつもの惑星に人々は移住し、月もその内の一つに過ぎなかった。
しかし、その月で今大きなトラブルが起きていた。
「かつて地球にはたくさんの伝説があってな」
突然一人の男が話し出した。
ヘルメットとプロテクターに身を包んだその男は、この月に派遣されてきた特殊部隊の分隊長だった。彼と同じ格好の者が他に4人。
彼らがいるのは、月の都市の一角。その通りの一つで待機していた。
「いきなりどうしたんです?」
部下の一人が答える。
「いや、敵のことを考えていてな」
隊長が言う敵とは、今この月を占拠したテロリスト集団のことだ。
それは突然起こり、疾風のごとく進み、あっという間に月の都市の主要施設をことごとく押さえてしまった。
そのあまりの手際の良さに、隊長の彼はむしろ心の中では賞賛すら覚えていた。口には出さなかったが。
そしてテロリストの要求の詳しいことは前線の彼らには伝えられていなかったが、どうやらこの月を自分たちが支配、運営していくというような内容らしい。
「何でそんなこと要求するかね」
部下の一人がつぶやいた。
「それは分からないが、やつらが強いことは間違いないですよ。どうやら全員見た目が狼みたいな感じらしいし」
「狼か。ってことはフォスレ星系のウルラ星人あたりか?」
宇宙は広い。いわゆる人間みたいな宇宙人もいれば、動物や訳の分からない形の者もいる。
「いや、目撃者情報だと、ヒューマンタイプから狼に変身したみたいな話もありますよ」
「メタモルフォーゼ系のやつってこと?」
部下たちがそれぞれテロリストの予想をしているとことで、再び隊長が割って入ってきた。
「そこで、俺が言った地球の伝説なんだがな」
「あ、それ続いてたんですね」
部下のツッコミを一切無視して隊長は続けた。
「かつて、地球には空に上がった満月を見ると狼に変身するという種族がいたらしい」
「それ、この前ネットでやってたオカルト番組のやつでしょ?狼男ってやつ」
「そんなホコリに埋もれて見えなくなってるくらい古い話が何の関係があるんです・・って、まさか」
「古い話だからって、無くなったとは限らないさ」
「つまり隊長は、今月を支配してるテロリスト共はその狼男の子孫か何かだと?」
部下たちはまた始まったかといった感じで話を聞いていた。
この隊長は、武力部隊を率いるうえでリアリストな反面、どこかロマンチストなところがある。
「狼男はつえーぞ。狼になると狂暴性と身体能力が桁違いに跳ね上がるそうだ」
「でもそれだと、狼男って月を見て狼になるんですよね?ここが月ですけど、その場合どうなるんです?」
「地面見て狼になるのかな?何かマヌケな感じするけど」
「そりゃお前、狼男は月からエネルギーをもらって変身して強くなるんだ。てことはだ、ここ月では常に強化状態ってわけだな」
「そりゃ、面倒なことこの上ないっすね」
隊長と部下たちが、笑いながらバカ話をしている時、情報端末に連絡が入った。
「・・・了解」
通信が切れると、先ほどの緩んだ空気が一瞬にして引き締まる。
「行くぞお前ら。俺たちは中央議事堂を南西方向から攻める。今から7分後だ。まず5分後に北東から第4分隊が突入し時間差で行く」
「了解」
彼らは無駄のない動きで行動に移る。
そして隊長の心には、どこか期待があった。
このテクノロジーが進化しきったと思われている今の宇宙時代に、人類発祥の地、古代惑星地球から、ロマン溢れる伝説が目の前に現れることを。

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